ケニー・ビーとクリストファー・ドイル

西村 それから主演のケニー・ビーですね。ケニー・ビーは香港の歌手で、ウィナーズというグループのメンバーだった人です。ちょうどこの79年に入るぐらいの頃から、グループが活動を一時休止して、ケニー・ビーは台湾に来て俳優としてしばらく活動することになります。その最初がこの映画で、あんなきらびやかな、英語で歌うロックバンドをやってた人が純朴な田舎の青年を演じるというのも、リー・シン監督の非常に鮮やかな起用だったんじゃないかな、と思います。

西村正男教授 ©台湾映画上映会2026

リム そうですね。ケニー・ビーは香港映画をよく観る人には、馴染みがあると思います。彼のバンドはすごい人気で、当時本当に大スターです。僕も小さい頃ずっと曲を聴いてました。ある意味ではこの映画は、西村先生が言われたように、台湾ニューシネマを準備する作品。スタイルから見ると、ホウ・シャオシェンとかエドワード・ヤンの映画と全然違うかもしれないし、古いメロドラマと思われるかもしれないですけど、台湾映画史の中でもすごく大事な作品じゃないかなと思います。ケニー・ビーはホウ・シャオシェンの監督デビュー作の主役もつとめました。

西村 はい。ケニー・ビーはこの映画で台湾映画デビューをして、その後しばらく台湾で活動し、ホウ・シャオシェンの最初の3作全部に主演するわけです。

ADVERTISEMENT

リム それから、この映画の撮影監督チェン・クンホウは、この映画のあとにまたジョアン・リンとケニー・ビー主演で映画を撮るんですが、その映画の脚本はホウ・シャオシェンです。彼はその映画の助監督でもありまして、ホウ・シャオシェンの初期の作品の撮影監督も全部チェン・クンホウです。台湾ニューシネマのひとつの特徴は、スタジオの撮影ではなくて、地方に行って撮影する、ロケを重視するというスタイルなんですけど、この『小さな町の恋』が影響を与えているんじゃないかと思うんですよね。

 もうひとつ、いま日本ではエドワード・ヤンのデビュー作『海辺の一日』が公開されていますが、その撮影監督はクリストファー・ドイルですよね。クリストファー・ドイルと言えば、多分、皆さん、香港のウォン・カーウァイの映画で馴染みが深いかもしれないですけど、でも実際に彼が最初に映画の現場に入ったのは、実はこの『小さな町の恋』なんです。

 オーストラリア人のドイルが台湾に遊びに行って、映画に興味があって、チェン・クンホウと知り合ったんですよね。そのときドイルはカメラのこと全くわかってないんですよ。全然知らなくて、ただ映画の現場が面白いなということで、チェン・クンホウにお願いしてこの現場に入れた。撮影助手というクレジットをもらってますが、実際にはほとんど撮影には関わってないんじゃないかなと思います。映画の中ではエキストラとして出演していますね。でも多分、誰も気づかないと思いますが(笑)。

映画『小さな町の恋』

西村 (観客に)皆さん、気づきましたかね? 私もさっきリム監督から聞いて、これが? って思いました。一瞬だけ外国人が映るシーンがあって。