量的な勉強をしかるべきタイミングで質的な勉強へと切り替えよ

 努力を2種類にわけて考えてみましょう。量的な努力と、質的な努力です。

 量的な努力は、だれでもやっている努力です。「量的」とは、かならずしも大量にやるという意味ではなく、同じような作業の反復・継続のことを指します。いったん50点の論文がコンスタントに書けるようになって量をこなしていたわたしの勉強が、まさにこれでした。

 それにたいして質的な勉強とは、50点の論文しか書けない実力の書き手が、80点の論文が書けるようになるための勉強です。これは50点の論文を100本書いてもダメだし、かつ現時点では80点の論文をそもそも書けないのですから、量によっては構造的に到達できない地点であるわけです。そのために必要な努力は、質的なものになる。

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 では、つねに質的な勉強を目指すべきなのでしょうか? じつはそうではない、というのが今回のポイントになります。

 質的な勉強には、必要なタイミングがあります。今回の例だと、たとえば教室でなにが起こっているのかよくわからんという時点のわたしが、いきなり学術誌のレベルを目指してもダメです。このような時点では、効果もよくわからないまま、まずはただ量をやってみるしかない。

 そして、いったん50点に届いても、まだ量的な勉強をやめてはいけません。ここで、「50点ならコンスタントに出せる」という状態にいたる必要があるのです。

 よく横ばいの状態を「プラトー」という言葉で「停滞」としてネガティブにとらえることがありますが、プラトーにはプラトーの役割があります。それは50前後のスコアなら確実に出せるという「安定」を盤石なものにすることにほかならず、じつは、そこでは実力の漸増すら目指す必要はないのです。

プラトー(plateau)は元来は地質学の用語で、高地または台地の意味。写真のように少なくとも片側が周囲の地域より急激に隆起した平坦な地形からなる高地の地域のことを指す。

 このプラトーを固めるための水平的な勉強を、「演習」と呼びます。まず「このあたりでプラトーを固められそうだ」と判断したら、そこでじゅうぶんな演習を積み、そのレベルに習熟します。その量はひとによって、レベルによって、分野によって色々でしょう。ちなみに、わたしは当時、論文10本という目安をもっていました。ただ、重要なことは数字よりも、「ほぼ確実にこのくらいは出せるな」という手応えを信じることです。

 この演習はかならず必要なのですが、それは一定期間でちゃんと切り上げなくてはなりません。そのレベルでの演習を積みきったら、きちんと「飽きる」ことが重要です。「ずっと同じことやってんな」という感覚を封殺しながら惰性で同質の成果を出しつづけること、それこそがまさしく停滞です。この質的な勉強に切り替えるべきシグナルを敏感に察知する必要がある。

 では、質的な勉強とはなにか。これはじつは非常に難しい問題で、その必要十分条件を提示することはできません。でも、できるかぎりヒントを出してみましょう。

 重要なことは、すくなくとも3つあります。第一に、ここでは手癖を忘れる必要があるということ。これを英語でunlearn(アンラーン)と呼びますが、いったん技術を身に着けたあと、その技術を使えばとりあえずクリアできてしまう局面で、その技術をあえて封じて、それとは別の技術をあらたに学び直すというのは、きわめて困難なことです。もしかすると、これは勉強においてもっとも困難なことかもしれません。50点の手癖を捨てて、70点や80点の技術を、あらたに作り直す必要がある。

 第二に、このプロセスにおいては、いったん50点を下回るようなアウトプットが出てしまう、ということです。50点を出せる手癖を捨てるのですから、50点も出せない場合も出てくるというわけですね。でも、それでいいのです。ブレイクスルーとはプラトー的安定の反対なのであり、すなわち破壊なのですから。そこでは、これまでにやったことがないことや、みずから禁じてきたことを試してみることが求められる。その先の成果にたどりつくには、「退化」に思える状態に耐える必要があります。

 そして第三に、ここではブレイクスルーの飛躍先をイメージできているほうがよい、ということです。あえて方向性をランダマイズする方法もありますが、これは上級者向けです。つまり今回の例でいえば80点の論文をモデルとしてもっているほうがよいということであり、現在の自分には書けないその論文が、なぜ自分には書けないのか、自分の50点の論文とどこがどう違うのか、それを分析したうえで、みずからブレイクスルーを狙ったタイミングで狙った地点へと起こすのです。

©Unsplash

 プラトー状態とは停滞ではなく安定であり、そのフェーズでは日々の成長を目指す必要すらない。ただし、プラトーの持続が自動的にブレイクスルーを導くことは、けっしてない。ブレイクスルーは、量的な勉強から質的な勉強へと、しかるべきタイミングで意識的に切り替えることによって起こりうる。それは破壊のプロセスであり、ストレスフルだが、その先にしかブレイクスルーは起こらない。

 今回はそういうお話でした。

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