甘辛く煮つけられた鯉を、箸で骨をほぐしながら白米と頬張る――。今や正月や法事でしか口にできなくなった米沢の郷土食を、127年の歴史を持つ松川弁当店が駅弁として今に伝えている。

 九州や大阪からも電話注文が入るという「米沢に行かなければ食べられない味」の秘密とは。グラフィック社刊『老舗駅弁 美味しさとロングセラーの秘密』より抜粋して紹介する。(全3回の1回目/つづきを読む)

松川弁当店「鯉弁当」

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発売当初から変わらぬ味「鯉の甘露煮」

 地元の食材を使った弁当は数あれど、鯉の甘露煮をメインにした弁当は、今では松川弁当店の『鯉弁当』だけだろう。山間部でも養殖が可能な鯉は、古くから人々の大切なタンパク源として食べられていた。

 中でも米沢は上杉鷹山公の財政難と飢饉対策として鯉の養殖が推奨された。1970年代までは米沢に限らず多くの場所で食されていたが、時代の流れと共に食卓に登ることは少なくなっている。

 弁当の主役である鯉の甘露煮の味は、発売当初より変わってない。ぶつ切りにした鯉を醤油や砂糖などで甘露煮にしていることは確かだが、配分などのレシピは企業秘密とされている。

 鯉は背骨も小骨もしっかりしているので、面倒だが取り難くはない。米沢の鯉に限っていえば、清流で育まれているせいだろうか、川魚にありがちな泥臭さは感じない。タレに染まった身はしっとりと柔らかく、内臓や皮は煮締めているので癖がない。食べ終わってみれば、骨以外きれいになくなっていた。

 周りには漬物や煮物を配しているが、どれも優しい味になっており、バランスが良い。何より、ふきのとう味噌など、米沢らしさが散りばめられていて、素朴な味わいにほっこりする。