今年6月から岩手県奥州市で運用をスタートしたスーパーコンピュータ「アテルイII」。プロジェクトの責任者は、国立天文台の小久保英一郎教授(50)だ。計算速度が3倍に向上した計算機を使い、宇宙で起こっている現象をシミュレーションすることで様々な研究が進められている。理論天文学の中でも、シミュレーション分野の研究者として「情熱大陸」や「又吉直樹のヘウレーカ!」などメディアへ多数出演し、「太陽や月は、どうやってできたの?」「宇宙人はいるの?」そんな素朴な疑問に分かりやすく答える小久保教授に話を聞いた。
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岩手県奥州市に「アテルイII」を作った意外な理由
――国立天文台の三鷹キャンパス、広いですねー。
小久保 敷地面積は約10万坪あります。豊かな自然に恵まれていて、春は桜がきれいですし、秋には紅葉も。天文学の観測装置が点在しています。
――国立天文台本部ではなく、岩手県奥州市に、新しいスーパーコンピュータ「アテルイII」を作ったのはどうしてですか?
小久保 スーパーコンピュータってすごく熱くなるので、いかに冷やすかというのが大きな問題となります。ありていに言えば、涼しい場所のほうが効率よく、電気代があまりかからずに済むんです。6月1日から本格的に運用を開始したので、3カ月経ちました。稼働率は9割以上で、すでに大忙しです。
――そういえば、映画『サマーウォーズ』でも、コンピュータを氷で冷やすシーンがありましたね。
小久保 気温が低いほうが冷やしやすいんです。国立天文台の中で最北のキャンパスが岩手県の水沢キャンパスでして。先々代の台長が決めました、「水沢に行きなさい」と。
――「アテルイII」というネーミングにも土地柄を感じます。
小久保 前身のスーパーコンピュータ「アテルイ」の名前は、水沢行きが決まった時に僕はすぐ思いついて、みんなが賛成してくれたので決まりました。約1200年前に、あの一帯を治めていた蝦夷(えみし)の長が由来です。アテルイのように果敢に「宇宙の謎に挑んでほしい」という願いを込めて。僕はもともと仙台の出身なので、どちらかというと朝廷よりは、蝦夷派というか(笑)。地の利を生かしてアテルイがあの地で少数で何十年も戦ったように、頭を使って賢く戦う。そういう計算機(コンピュータ)になってほしいという気持ちがあります。