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「天文学って役に立つんですか?」と聞かれたら――国立天文台・小久保英一郎教授インタビュー

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宇宙を再現したり、月を作ったり

――スーパーコンピュータを使うと、宇宙の何が分かるんですか?

小久保 望遠鏡では見ることができない宇宙を描くことができます。例えば僕が研究している太陽系などの惑星系の形成について言えば、そもそも惑星系ができるのには何十億年もかかるものなので、そんなにずっと望遠鏡では見ていられないですよね。しかも、惑星系は宇宙の中ではとても小さいスケールの世界なので、望遠鏡で惑星系が形成される過程の詳細な様子までは見えないし。じゃあどうするかというと、コンピュータを使ってその中に「宇宙を再現」して、例えば、地球を作ったり、月を作ったり。

 3次元に時間軸を加えた4次元の宇宙を自分の手で作りだし、そこで何が起きるかを計算して調べることができる。その計算というのは、今僕らに分かっている宇宙の物理法則を表した計算式をコンピュータが解くということ。宇宙で何が起きたのか、これから何が起こるのかということが分かるんです。

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――観測ではなくて、理論や計算式によって。

小久保 そうです。望遠鏡で宇宙を見て、写真を撮ったりする。これは2次元の情報ですよね。しかも、その瞬間の。でも、現実世界はもちろん3次元空間で、さらに時間と共に物事は変化していくわけです。

「アテルイII」の予算は、年間で約3億円。国立天文台では大きな望遠鏡とか予算をたくさん使っているところがあるのですが、億単位の予算なので、結構苦労して確保しています。もともと、スーパーコンピュータってレンタルなんです。だから運用期間は5~6年間と決まっています。

――レンタルなんですね! 知らない世界です。

小久保 そうなんですよ。新しいスーパーコンピュータを導入する前、2年くらいは「仕様書」の策定や予算の確保など、本来の研究とは離れたところで仕事がたくさんあります。

シュミレーション分野を選んだのは「全部自分でできるから」

 

――小久保先生が、シミュレーション天文学の道を選んだ決め手は?

小久保 さっきの話とつながりますが、いま、天文学の研究をするとなると手法として「観測」と「理論」の両輪があり、さらに理論は純粋理論とシミュレーションの2つに分かれます。つまり観測、理論、シミュレーションの“三つ巴”なんです。決め手と言われると、全部自分でできるからですかね。自分でプログラムを書いて、僕の場合だったら地球を作ってみたり、月を作ってみたりできる。それが「ちょっと面白そうだな」って思って。

 僕は小さい頃から宇宙と同じように、生き物にも興味があったんです。「宇宙人はいるのかな」とか。だから、宇宙の中でも生き物が存在できそうな「惑星」を研究しようと思いました。僕は、銀河系は生命に満ちあふれているという考えを持っています。その理由は、地球に生命が存在するから。宇宙に太陽みたいな星はたくさんあるし、その周りに普通に惑星があることも最新の研究で分かってきています。