家庭料理こそ「薬味」な理由
――薬味にこだわるのはなぜですか。だって家庭料理で薬味って、いちばん省きがちに思えるのに。
長谷川 薬味は料理の“サビ”だと思っているんです。私は美味しい料理が食べたいわけじゃなくて、香りがいいものを食べたい。正直、美味しい料理を食べたいと思ったら、もはや料理はしなくてもいい時代だなと思うんですよ。
――美味しい料理なら、外食でもいいですもんね。
長谷川 私、最近まで1人1万円以上する中華料理に行く大人の気持ちがわからなかったんですよね。町中華で、十分味は美味しい。では高価なお店の料理は何が違うかというと、圧倒的に香りが際立つということに気がついて。
同じ冷奴でも、安い居酒屋さんの冷奴と高い居酒屋さんの冷奴で違うのは、薬味のネギが新鮮で切りたてかとか、生姜がおろしたてかとか。でも“作りたて”って、実はいちばん家で再現可能な行為じゃないですか。家でネギ切って生姜をおろして、豆腐にかけて美味しいお醤油かけたら手軽に美味しい冷奴が食べられる。そう考えると、家で料理をする意味、リターンが大きいのって、もう香りなのではと。
――香りによって、味の感じ方も変わってきますか。
長谷川 「味」って、基本五味のどれかみたいな話だと思うんですけど、食感や香りを含めたものが「味わい」。私はこの「味わい」を大切にしたい。食感と香りの良さは、手間に対する満足度が高いのもポイントですね。
自分をすり減らさない
――世の中には、誰かのためじゃないと料理なんてしない、という意見もあります。
長谷川 私は、基本的に料理は自分のためであるべきだという考えです。人のために料理をする時に、自分をすり減らしてやる「人のため」は、ハッピーではない。でもそれが、喜んでもらえたら自分が嬉しいから料理をする、と前向きで能動的な姿勢なら、それもまた「自分のため」という解釈です。
自分のためにならないなと思った時に、手放せる状況であってほしい。「今日、料理を作るのは自分のためにならないや」という時のお守りとして、冷凍食品をストックしておくとか、惣菜を買ってくる、外食へ行くといった選択肢を適切に取れるといいなと思います。
けれど、1%でも作りたい気持ちがあるなら、その人のためのレシピを提供したい。
