父親の代わりに矢面に立たされたのは…

 飯塚の代理として立ち会った長男は、開始前に衝撃を受けた。設置されていたホワイトボードに全被害者の年齢と性別、それぞれの怪我の状態が、目を背けたくなるような言葉で書かれていたからだ。報道から被害者の断片的な情報しか知らなかった長男は具体的な惨状を初めて知り、強い罪悪感を抱えながら実況見分を見守った。後に長男はこのことを意図的な圧力だったと考えたが、警視庁側は事故の概要を事務的に記していただけだったという。

 約一二時間に及んだ実況見分の結果、車は外観こそめちゃくちゃだが、主要な装置は正常だったことが判明した。アクセルやブレーキなどにも異常は確認できず、長男はこの結論を冷静に受け入れた。警視庁側が技術的な説明をすると「それは私も聞いたことがあります」などと話し、専門家レベルの理解力を持っていたという。ある捜査員は私の取材に対し、「長男は『一を聞いて十を知る』という感じだったね。加害者の家族で、こんな物わかりのいい人は今まで見たことがなかった。あの言葉がこちらの心理的な支えにもなった」と評した。

 長男は、捜査員に感謝を述べた。

ADVERTISEMENT

「ここまで調べていただいてありがとうございます。これは完全に踏み間違いです。私が父親を説得します」

 多摩総合庁舎は第二の捜査拠点となっていた。この日とは別に、ごみ収集車、自転車三台、真菜さんと莉子ちゃんの衣服などの調査が行われた。実際の車両を使い、衝突時の位置関係や角度を細かく再現し、一見しただけでは気づかない傷を見つけ、事故の因果関係を明らかにしていった。

 入院中で身動きの取れない飯塚の代わりに、矢面に立ったのは長男だった。