証拠品は3万点を超えた
関係先の家宅捜索は、松永と緒方が逮捕された翌日の3月8日に、小倉北署によって行われたが、小倉北署に捜査本部が設置されて以降の、3月15日にも、捜査本部によって家宅捜索が行われている。
その際の捜索・差押令状は、広田由紀夫さんへの殺人容疑として取られており、現場ではT班長の指揮の下で実行されている。
「その前の家宅捜索では清美さんへの監禁についての資料だけしか、押収してなかったんです。だから15日の際は、令状請求を担当するM係長の発案で、押収する証拠品について『殺人事件に関するすべてのもの』という形にして令状を取りました」
T班長によれば、過去にそのような令状の取り方をしたことはなかったという。
「通常は押収する証拠品について、品目と容疑を書いて出すんですが、何が事件に関わってくるかわからない。そのため、『室内にあるすべての物品を対象にした方がいい』となり、それらが殺人に関係する疑いがあるという資料を作成して、添付しました。地裁からは、『今回限りですからね』と釘を刺されて令状を出してもらえましたが、前例のないこと。それは本当に有り難かったですね」
その結果、押収した証拠品は3万点を超えたのだという。T班長は苦笑を浮かべる。
「押収した証拠品の一つずつ、全部写真を撮らせてね、それに証拠品番号を全部つけるのですが、一つにつき3回の印字が必要になるんです」
つまり証拠品の撮影を担当する鑑識課員の係長は、3万枚以上の写真を撮り、証拠品担当である特捜の係長と係員は、9万回以上の印字を行ったということである。
借り上げた官舎は7部屋
莫大な量の証拠品だけに、大変なことはそれだけにとどまらない。
「押収した証拠品のどれが被害者と関係するものかを、確認しなきゃならないですからね。そのための場所が必要だったんですよ。で、小倉北署には使用できる場所がなかったから、小倉南署とか八幡西署とか、計3カ所の道場を借りることになりました。そこに証拠品係が全部並べ、被害者である緒方さんの親族を連れて来て、見てもらったんです。これは他にも検事やら、私たち捜査員も見ました。ただ結果として、『これは緒方家のもの』というものはなかった。緒方純子の生活用品とか、息子たちの洋服とか、そんなものがほとんどでした」
とはいえ、押収した証拠品のなかから、松永と緒方の本名の判明に繋がるものも見つかっている。
「緒方が幼稚園に勤めとったでしょ。そのときの健康保険証があったんですよ。松永の身元確認ができるものはありませんでした。ただ、緒方の保険証についての捜査を進めたところ、すぐに松永の存在と本名にも行き着きました」
捜査本部が松永と緒方の本名を特定したとされているのが、3月13日のこと。もちろん、それよりも前に捜査本部では、本名はこれだろうとなっていたが、確認作業を行っていたため、その日をもって、この名前で間違いないとされたのである。
この段階で、彼らが過去に福岡県警柳川署において、詐欺容疑などで指名手配されていたことも明らかになった。また、緒方が久留米市に置いていた住民票には、男児2人の住民登録がされており、「泉台マンション」で保護された9歳と5歳の男児が、緒方の子供であると報じるメディアもあった(DNA型鑑定による確認はその後のこと)。
3カ所の道場を使って、遺族等への確認が行われた3万点以上の証拠品は、その後、3Kの官舎7部屋に分散して置かれていたそうだ。
じつは、こうした証拠品についての情報に関して、私は拙著『完全ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件』において、間違いを報じていた。同書には次のような記載がある。
[ある捜査員は県警担当記者に対して、次のように話している。
「(三月八日と十五日の関係先四カ所への家宅捜索による)押収品数千点は、××(地名=北九州市小倉北区)の官舎の二部屋を借り切って仕分けしている。数メートルの長さで切断された電気コードが何本も出てきてはいるが、他はほとんどガラクタだ」](同書P45より)
捜査員がそう話したこと、県警担当記者がそのようにメモをとったことは間違いない。だが、押収品は実際には数千点どころか3万点以上あり、借り上げた官舎は2部屋ではなく、7部屋だったのである。
つまり今回の私のT班長への取材は、自分自身がこれまでに取材してきて、正しいと判断したことへの、答え合わせでもあるのだ。
(第3回に続く)
(おのいっこう/1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。著書に『殺人犯との対話』『震災風俗嬢』『新版 家族喰い―尼崎連続変死事件の真相』『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』など。)
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