カトウを乗せた岡田のベンツは、積水ハウスの西新宿・ホウライビルでの打ち合わせの際はいつも「京王プラザホテル」前の「議事堂通り」に路駐していた。ここから記す手付金や本決済時の動きは、カトウは刑事には一切語らなかったことである。
車内には、今日手にするであろう12億円分の小切手を換金した際に詰めこむ白い無地の手提げの紙袋5セット。それぞれ紙袋の底が抜けないよう二重に重ねられていた。
そこへ長谷川が12億円の小切手を手に車内に戻ってくる。岡田は約3週間前に作った「エビサワサキコ」名義の口座を通じて現金化すべく、大崎駅の地方銀行の支店へと車を走らせた。
いつもは現場には現れない土井も、銀行前で合流することになっていた。金が手に入ったことを確実に見守り、土井自らの手で持ち帰るためだ。カトウが言う。
「地面師関係の金はみんなが奪い合う戦争みたいなもん」
「誰がいつ金を横流しにするかわからないからね。地面師関係の金はみんなが奪い合う戦争みたいなもんですからね」
金が口座に入ったとしても、いつ口座が凍結されるかわからない。出金するまでは安心できない。
「地面師詐欺では口座が凍結されて金を出せなかったケースが何度もあるって聞いたことがある。この時は金額も大きいし、何かトラブった時に対応するためにも土井会長が出てきたんでしょう」
岡田が運転するシルバーのベンツが大崎駅の地方銀行の支店に着くと、土井を乗せたセンチュリーが路駐し待機していた。「シルバーのベンツと黒のセンチュリーが縦列駐車してるなんて、いかにも怪しいですけどね」とカトウは笑ったが、現場での作業は速やかに進んだ。
長谷川と岡田で店内に小切手を持ち込み、ものの数分で1億円ずつ詰めた紙袋が5個、銀行員と岡田によって車に詰め込まれた。この銀行員は、おそらくただ手伝わされただけで何も知らないのだろう。