「先生」と呼ばれるナゾの中堅地面師
「“先生”がお客さんを付けるから、地主(長谷川)を赤坂のコージーコーナーに連れて行ってくれ。地主だけが先生と話をしても、何の話かわからないだろうから、お前も一緒に聞いてやってくれ」
松田が“先生”と呼ぶのは、かつて地面師詐欺で警視庁捜査2課に逮捕され受刑歴もある中堅地面師の野村和義(仮名)である。野村は松田のもとに海喜館の土地の融資詐欺バナシを持ちかけたのだ。野村が探してきた客なので、カミンスカスが出る幕ではない。
カトウも野村とは面識があり、松田が言う「話を聞け」とは、「お前が前周りをしろ」という意味でもある。カトウはそれまで連絡役として土井や長谷川と連絡を取り合ったり、「道具」を保管する役割に不満はなかった一方で、「前周り」はしたくないと考えていたが、“兄さん”の指示を断れなかった。
カトウは指示された日時に長谷川と、指定されたコージーコーナー赤坂店へ向かった。そこで落ち合った野村は挨拶もそこそこにこう説明した。
「海喜館の不動産を担保に宝石商の借主が4億円を金融機関から借り、半分の2億円を俺(野村)、松田、カトウ、長谷川が謝礼として受け取れる。返済は借主が4億円全額払う。ちゃんと返済すればいいだけなので事件にならない」
カトウはその話を聞き、宝石商になんのメリットもない無茶苦茶な話だと思ったが、数日後に松田から長谷川を連れて赤坂エクセルホテル東急の喫茶室に行くよう指示された。
「そこには野村以外に高齢の男性と女性がいて、女性は自らを宝石商と名乗った。俺は特に何も喋らなかったけど、野村が勝手に俺を地主(長谷川)の親戚だと紹介してた。あの高齢の男性も女性も正直、何者だったのかはわからない」