緊張の瞬間
カミンスカスは、内覧会中に自分のスマホに長谷川から電話が入るようにも段取りをつけていた、とカトウは説明する。長谷川はふだんから、地主として振る舞うために第三者名義のスマホを持たされていた。車内で待機するカトウと長谷川のもとにカミンスカスからこんな電話があった。
「あと10分後くらいに地主のスマホから俺に電話かけて」
「俺の言うことに、ただハイハイ言うだけでいいから」
カトウは長谷川のスマホからカミンスカスに電話した。するとカミンスカスは、さも地主に話しているかのようにこんなことを言った。
「この調理場の調理器具とか冷蔵庫は処分してもいいんだよね?」
カミンスカスは、電話でもかけなければ間が持たないと思ったのかもしれない。後日、カトウがカミンスカスに「怖くなかったの?」と聞くと、カミンスカスは「壁に飾られた先祖の写真などを見ながら、適当なことを言って時間を稼いだ」と言っていたという。
そんなカミンスカスの緊張はよそに、他のメンバーに緊張感はまったくと言っていいほどなかった。ちょうど内覧の時間帯はお昼時。電話が終わると、腹を空かせたカトウらは新橋駅周辺の回転寿司屋へ。
「まあ、こっちはただ待ってるだけで何もすることないからね。お腹も空いたし寿司でも食べるかって店に入ったんだ。小山さんは緊張の1時間を過ごしていたと思うけど、俺らは寿司なんか食べて呑気なもんだよね。その後は車内で待機したよ」
こうした場で他愛のない話をするのはもっぱらカトウと運転手の岡田で、長谷川はほとんど口を挟むことはなかった。
