松平家のご令嬢を無理やり…

前記したように、樋口は同年8月1日に少女への強制猥褻で逮捕されている。きっかけは、明治神宮に参拝に行った帰りに1枚の定期券を拾ったことだった。

 持ち主は世田谷区田園調布在住、女子学習院初等科5年の、男爵・松平家(徳川家康の源流に当たる名家)の令嬢M子さん(同12歳)。

 樋口はこれを返却することを口実に彼女に声をかけ、都内を3日間連れ回した挙げ句、不審尋問に引っかかり身柄を拘束される。裁判で懲役3年の実刑判決を受け巣鴨刑務所に拘置。

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 入れられた独房の下には、スパイ容疑で逮捕され後に死刑となるリヒャルト・ゾルゲ(1895-1944)、2つ隣りには尾崎秀実(1901-1944)がいたそうだ。連れ回した相手が華族階級の娘ということもあって、重要犯罪人の扱いを受けたのだ。

 半年後、八王子少年刑務所に移送されたものの、1945年7月31日、刑務作業中に看守の目を盗んで脱走。

 大陸に渡り朝鮮・木浦を経て羅津で終戦を迎えた。

 その後、内地に戻り偽名を使って生活、1946年3月、前出清水家の次女を誘拐する。その夜は千住大橋の下で野宿。それから茨城・水戸の母の疎開先で約1ヶ月を過ごし、横浜から群馬・草津温泉へ。事情を何も知らず「兄さん兄さん」と言う次女が実に可愛くてワンピースを買ってやり、彼女も米兵からもらったチョコレートを自分にも分けてくれた。