アニメ映画の原作者で漫画連載をしている先生方は、ご自身の仕事もあるのでどうしても制作から離れざるを得ない瞬間があると思います。それに比べると私はかなり深く入りこめる状況だったので、どのような距離感で関わるのが正解なのかすごく悩みました。
でも、悔いがないようにしたかったので、出来ることは全部やらせていただきました。(同上)
というコメントからは、原作者特権で独裁者的に映画を支配するのではなく、まわりの状況を見ながらコミットメントするスタンス、繊細な感性をうかがい知ることができる。
驚くべきことに、この映画の公開記念舞台挨拶は、まだ一度も行われていない。7月24日からの3日間で興行収入22.4億円。8月2日までの累計は44億円、観客数300万人。世界を席巻する『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』が公開されシアターを半分以上奪われたにも関わらず、いまだランキングで互角以上の動員を見せている。
最終興収100億円も夢ではないこのレベルのヒットを続けながら、公開記念も大ヒット御礼も含め一切の舞台挨拶が行われないのは、一切の広告宣伝をしないことで話題を集めた宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』など少数の例外を除き、日本映画界において極めて異例のことである。
ストイックな興行戦略は作者・ナガノの意向?
『映画ちいかわ』の大胆な戦略については、以前からファンの間で話題になっていた。人気アニメ作品によく見られる有名俳優によるゲスト声優の枠がない。トップアーティストによる主題歌もない。どちらも観客動員、作品のパブリシティには大きな効果があるシステムだ。
そういった施策には作品ファンからの批判も一定数あるが、20世紀ならいざ知らず、完全にアニメが市民権を得た今となっては、有名俳優の吹き替え声優も、アーティストの主題歌もきわめてレベルが高く、昔のように作品の空気を壊すような粗悪なものはまずない。米津玄師、あいみょんをはじめとして、作品のテーマやモチーフを織り込み作品をさらに押し上げる名曲を提供するトップアーティストは何人も存在する。
国民的人気の『ちいかわ』であれば、そうした相乗効果をあげるトップ中のトップとコラボする選択肢は、作品のクオリティを落とさないノーリスクハイリターンの興行戦略であったはずだ。だが、原作者の作詞、そしてかねてから信頼するトクマルシューゴとの音楽で作品世界を構築することを選んでいる。
