英印軍のために働いた女性人類学者

 英印軍は国境地域を専門とする学者や現地事情に詳しい行政官も総動員した。彼らに課した任務は、単なる調査だけにとどまらず、地元住民からなる部隊の構築や指揮にまで及んだ。

 なかでも際だった存在感を示したのが、イングランド出身の人類学者アーシュラ・グラハム・バウワーだ。当時20代後半の彼女は、アッサム州北カチャールのゼミ・ナガ族地域でフィールドワークをしており、地元の敬慕を集める存在だった。自著『ナガの道』には、拠点とは別の村を訪ねた際、住民から大変な歓待を受け、「おお母よ! おお女王よ、おお女神よ!」と称えられたというエピソードが記されている(Ursula Graham Bower, Naga Path, p.57)。バウワーが現地入りしたのは、民族運動を展開していたナガ族の女性指導者、ラニ・ガイディンリウがインド当局に収監されて間もないタイミングだった。そのため、彼女はガイディンリウの「化身」と見なされもした。

アーシュラ・グラハム・バウワー

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 そんなバウワーに英印軍が目をつけないわけがなかった。現地住民との信頼関係を買われ、Vフォースにリクルートされたのだった。この要請を受け入れた彼女は、北カチャールの拠点村、ハングラムで隊員募集をはじめた。しかし、村人からは「なぜサーヒブたち〔ここではバウワーらイギリス人を意味する〕のために戦わなくてはいけないのか」「罠にちがいない」などと疑問の声が上がった。このときは通訳兼補佐役のナムキアというナガ族男性が、対立するアンガミ・ナガ支族から自分たちを守ってくれたのはイギリス人ではないか、道路や塩市場を作ってくれたのはイギリス人ではないか、と反論してくれた。バウワーも「みなさんを連れ去ることなどしません」と必死の説得を行い、最終的に村人から受け入れてもらうことができた(Bower, Naga Path, pp.186-189)。部隊の隊長は彼女自身が務めた。