がんと向き合ううえで欠かせない重要なポイント
(1)キラーT細胞(CD8+T細胞)
ウイルスや細菌に感染した細胞やがん細胞などの異常細胞を特異的に認識し、直接攻撃してアポトーシス(細胞死)を誘導する免疫細胞である。骨髄系の免疫細胞の一種である抗原提示細胞からの情報と次に説明するヘルパーT細胞の支援を受けて活性化され、パーフォリンやグランザイムといった細胞毒素を放出して標的細胞を攻撃する。
(2)ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)
ヘルパーT細胞は免疫系の司令塔として働く免疫細胞である。抗原提示細胞からの情報を受け取って活性化されると、様々なサイトカインを分泌して他の免疫細胞を支援・調整する。特にキラーT細胞の活性化を促進し、B細胞の抗体産生を助けるほか、骨髄系の免疫細胞の一種であるマクロファージなどの自然免疫細胞の機能も強化する。ヘルパーT細胞はさらにいくつかのサブタイプに分かれ、Th1細胞は細胞性免疫を、Th2細胞は液性免疫を、Th17細胞は炎症反応を司るなど、それぞれ異なる機能を持つ。
(3)制御性T細胞(CD4+CD25+FOXP3+)
1970年代、免疫応答を抑制するT細胞として抑制性T細胞が提唱された。しかし、その実態を分子レベルで明確に同定することが難しく、80年代にはこの概念は一時的に否定的な評価を受けた。その後、90年代後半になって、転写因子FOXP3を発現するCD4+CD25+T細胞が免疫応答の制御に必須であることが明らかになり、これが制御性T細胞と呼ばれるようになった(ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文先生が発見)。ヘルパーT細胞と同じ表面マーカーCD4を持つが、その機能は対照的である。制御性T細胞は、免疫反応が過剰にならないように免疫のバランスを制御するブレーキの役割を果たす。自己免疫疾患の予防に必須だが、がん微小環境においてがん細胞はこの制御機構を悪用して免疫逃避に利用されるため、制御性T細胞はがん治療においてはむしろマイナスの働きとも言える。
・NK(Natural Killer)細胞
T細胞とは異なり、NK細胞は抗原提示や他の免役細胞からの指示を待つことなしに、自律的にがん細胞やウイルス感染細胞を認識し、攻撃することができる免疫細胞である。自然免疫に属するが、その高い殺傷能力と迅速な反応から、がん免疫の初動において極めて重要な役割を担っている。T細胞が抗原提示細胞を介した標的認識を通して戦略的に攻撃を行う一方、NK細胞の特徴はその即応性にある。
NK細胞は標的細胞のHLAクラスⅠ分子(自己と非自己を識別する目印)の発現レベルを監視し、それが低下している細胞を非自己と判断して攻撃する。常に血液やリンパ液を通じて体内を巡回しており、がん細胞やウイルス感染細胞を見つけると、即座に攻撃を開始する。この迅速な反応性こそが、がんの初期段階での監視・排除において極めて重要であると考えられている。
これらの免役細胞――B細胞、T細胞、NK細胞――は、それぞれ異なる仕組みと役割を持ちながら、互いに連携してがん細胞に対処している。がんの発症や進行には、これら免疫細胞の機能低下や協調の乱れが深く関わっており、免疫系の健全な働きを保つことは、がん予防や治療の基盤となる。
がんは、このような免疫細胞の働きを無効化する巧妙な仕組みを備え、PD–L1の発現や制御性T細胞の誘導、腫瘍微小環境の酸性化、慢性炎症などにより、免疫のブレーキをかけ、がん細胞が生存するのに有利な環境に作り変えてしまう。そのため、免疫の力をいかに維持し、高めていくかが、がんと向き合ううえで欠かせない重要なポイントとなる。