――志が高い若者と将棋を指すと、触発されますか。
久保 ええ、明らかによい影響がありますよ。同じ環境で同じ人と同じことをやっていると、マンネリになってしまいかねない。変化しない、それは私がいちばん嫌いなことです。変えると現状よりも下がることを恐れるひともいると思うんですけど、変えないと絶対に平行線ですから。
キーワードは「結晶性知能」
――何より、ここ10数年の将棋界はAIで作戦が激変し、トップ棋士の顔ぶれも入れ替わって一気に若返りました。AIをもとに居飛車の戦術は広がりましたが、振り飛車はどうですか。
久保 振り飛車側はミレニアム(トーチカ)に組むぐらいですかね。居飛車ほど、新しいものが出てきてはいません。人間が自力で何か見つけていかないと現状では難しく、それだけ工夫が求められる戦型なのかもしれません。そのためには感性が必要ですね。
――感性はどうすれば鍛えられますか。
久保 うーん……。経験を積むしかない気がします。私はアマチュア時代から振り飛車を40年以上指していて、培った経験、知識は大きかったはずです。いわゆる、結晶性知能ですね。
――心理学の用語ですよね。大雑把に説明すれば、「結晶性知能」は経験を積み重ねて得られるもの、対して「流動性知能」は問題解決・処理能力で年齢とともに衰えやすい。将棋界では馴染みのないワードですが、前者は対局を重ねて成長する大局観、後者は中終盤の深い読みや詰将棋の計算能力に当たりそうです。それにしても、久保九段はどういう経緯で「結晶性知能」と「流動性知能」のことを知ったんですか。
久保 脳科学の本ですね。いろいろな本を読むのが好きで、ほかに心理学や禅も学んできました。新しいものを取り入れたいという気持ちが常にあります。現状維持では厳しいと思っているので。
――棋士が強くなるには、将棋の研究だけを徹底的にやればいいのか。それとも、幅広く経験を積んで視野を広く持ったほうがいいのかは意見が分かれるでしょう。久保九段が幅広く読書しているのは、いつ頃からですか。
久保 よく読むようになったのは20代後半で、タイトル挑戦を何度も失敗したときです。それからスポーツ心理学の本を読んだり、メンタルトレーナーに相談するようになりました。
メンタル強化目的で護摩行へ…
――久保九段がタイトルに初挑戦したのは25歳、2001年の棋王戦です。羽生善治現九段を相手に1勝3敗で敗退し、そこから3回タイトルに挑戦し続けたものの、すべて羽生九段に敗れました。初タイトル獲得は5回目の挑戦で、2009年の棋王戦です。
久保 羽生さんの壁がかなり厚かったので、何かしない限りはタイトルを取れないと思っていました。27歳(2003年)でA級に上がったときに、護摩行にいきましたね。技術はそれなりに追いついたはずなので、今度はメンタルに目を向けました。



