――護摩行ですか!

久保 知り合いが鹿児島の住職さんとつながりがあって、私から頼んで紹介してもらいました。手を伸ばせば届きそうな距離に大きな炎が焚かれていて、その前で座ったまま真言を2時間唱え続けるんです。めちゃめちゃ熱くて、顔は火ぶくれします。正直いって、死ぬかと思いました。

――聞くだけでも過酷さが伝わってきます。

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久保 事前に免責同意書を書きますからね。「絶対に声をずっと出していてください。声が止まると、意識が飛んじゃいますから」といわれましたよ。1時間で真言が変わるので、それでようやく半分経ったのかとわかります。

 あれから20数年経ちますが、人生でそれよりきついことはなかったので、やってよかったです。何か苦しいことがあっても、あれ以上はないなと思えました。

©︎杉山秀樹/文藝春秋

――護摩行をもう1回やろうと思ったことはありますか。

久保 いやー、思ったときはあったんですけどね(笑)。私の後にも何人かいっているみたいですが、2回もやったというのは聞かないですね。

 藤森(哲也六段)くん、冨田(誠也五段)くんは奨励会三段のときだったと聞いています。プロまであと一歩の人が多いみたいですね。

真剣勝負ほど楽しんだほうがいい

――極限の経験をすると、メンタルにいい影響があるんですね。トップ棋士になれば精神面も強いというイメージですが、いま久保九段が20代の自分自身を振り返ってみるとメンタルが安定してなかったんですか。

久保 そう思います。A級順位戦を戦うようになると、夕食休憩の辺りで心臓がドキドキして、ご飯が喉を通らないこともありました。負けることを恐れていたと思うんですよ。そういう状況ではよい将棋も指せません。

――メンタルトレーナーをつけるというのも、将棋界では珍しいですよね。

久保 初タイトルを取る前からメンタルトレーナーの方に相談に乗ってもらうようになり、5年ぐらいは続きました。

 きっかけはスポーツ心理学の本で、ある著者の本を何冊か読んでいたんですよ。その話を編集者にしたら「うちでも本を出しているのでご紹介します」と会わせてもらえました。

 その先生はプロ野球や相撲、政財界のドクターも担当されていて、メンタルに関する知識は一流。将棋の世界のことはご存じなかったんですが、お願いしてカウンセリングをしてもらいました。