――どういったことを相談するんですか。
久保 先ほどお話しした、対局中にドキドキしていることですね。ひと通りしゃべったあとに「久保さん、あんまり将棋楽しくないでしょう」と指摘されました。確かにそうだったんですよ。
さらに「でも、将棋を始めたときは、楽しくてやっていたはずです。そのときの気持ちでやってみたらどうですか。初心者と指して全部勝つ、そんな勝負をしても楽しくないでしょう。勝つか負けるか、ギリギリのところで戦うから楽しいんじゃないですか」といわれて、なるほどなぁと思いましたよ。それから、対局前にコメントを求められると「勝負を楽しむ」というようになりました。
当時、スポーツだと海外選手は「今日は試合をエンジョイするよ」という心構えが一般的になっていたような気がするんですが、日本だとあまり受け入れられておらず、「真剣勝負なのに、楽しむなんて何事だ」という風潮だった気がします。
――オリンピックや世界選手権に出るアスリートが「日の丸を背負って戦う」と覚悟を持つようなイメージですか。ただ、それが行き過ぎると逆にプレッシャーになりそうです。
久保 ええ。世界ランクが1位の人でも結果を出せなかったことを見ていると、メンタルも重要だなと感じます。その差は真剣勝負を楽しんだ人、楽しめなかった人の違いなのかなと思いました。真剣勝負ほど楽しんだほうがいいです。
「次に勝つために負けたんだ」と思う
――どうすれば、そういう境地で本番に臨めるんでしょうか。事前にリラックスしよう、楽しもうと思っていても、いざ本番になったらプレッシャーがかかってしまうことも多いはずです。
久保 そうなんですよね。やっぱり勝負なので、いくらメンタルトレーナーの方にいわれても、完全に受け入れられるところまではいきません。でも、将棋を始めたときの気持ちを忘れずに指そうと意識しています。
子どものときは、勝とうが負けようがずっと楽しくて永遠に将棋を指していました。強くなってプロになってもミスをしたり、負けることは当たり前のようにあります。
先生からは「ミスをしても、負けても、それは自分が進化するための過程だと考えたらいいじゃない」といわれて、自分も「次に勝つために負けたんだと思えば、今度の対局にも前向きに行ける」と思えるようになりました。負けの意味を持ったほうがいいですからね。
――もしかして、メンタルトレーナーがいなければ、タイトルを取れなかったんでしょうか?
久保 そうだと思いますよ。初タイトルを取る前がいちばん相談に乗ってもらって、月に2回はやっていましたからね。タイトル戦開幕前のインタビューを受けるときも、「せっかくのタイトル戦を楽しんだらいいじゃないですか。いまの状態だったら、そういうコメントを出せますよ」と背中を押してもらいました。
――トップ棋士なら心技体すべてが揃っているイメージがありましたが、その先も強くなるのに壁があるんですね。
久保 みえないところで、いろいろな悩みがありながら戦っているはずです。 まあ、当然みせないですけどね。みんなプロなんで。



