筒井 それは分かりません。僕は小説の作り方も、大江さんとは正反対でね。あの人は画板のようなボードに原稿用紙を貼り付けて、そこへ手書きで細々と書き込んでいくという書き方。僕はパソコンですから。

 成田 キーボードはいつ頃から?

©文藝春秋

 筒井 『残像に口紅を』(1989年)の頃からです。あの頃はまだワープロだったけど。

ADVERTISEMENT

 成田 『残像に口紅を』は使える文字が一つずつ世界から消えていく。キーボードなら文字禁止しやすいですね。

 筒井 そうです。たまには曲芸でもやるか、と。昔から「文字落し」という遊びがあるんですよ。だから、あれはその後、やたらと評判になったけれども、僕の本来の作品じゃないです。何か文学的なものを追求しているとか、そういうものではない。それが結構売れたりなんかして、皮肉なものですけどね。

 成田 あれを書いているうちに言語観は変わりましたか。

 筒井 あの程度で言語観が変わるようなやわな作家じゃないですよ。まあ、文字落ししようが何しようが、どうしても私という作家が顔を出してきますからね。それは仕方がない。

『虚人たち』への沈黙

 成田 逆にご自身としては達成感があったのに、世間的や文壇的に評価されなかった作品はありますか。

 筒井 今評判になっているやつは、発表した当時、全然評価されなかったものが多いですね。『虚航船団』(84年、文房具が乗組員の宇宙船団と、イタチが築いた文明との戦争を描いた長篇小説)がそうでしょう。さんざん罵倒された。それから『虚人たち』(81年)は沈黙でしたね。わけわからないから。

 成田 『虚人たち』は「自分は小説の登場人物だ」と気づいた主人公が物語から逃れようとあがいたり、作者も作中に登場したり……分類不能なメタ小説といった趣で、何とも言いようがない。素朴に読んで面白い筋書きがあるでもないですし。

 筒井 そうですね。だけど、こっちはこっちで「普通の小説でやらないことを全部やってやろう」という意図があるから。それを自分で勘定してみたら、10か20か、そのぐらいの意図はあったんです。普通の小説では主人公がトイレでウンチするところまで書かないでしょう。

 成田 今朝ちょっと読み返していたら、便所に入った主人公が小便すべきか悩んでて。だいぶ我慢して溜まってるので、小便しはじめちゃうと時間がかかる、と。すると進行中の他の出来事と尺が合わなくなると心配してる場面が数ページ続いて。

 筒井 大便の場面はなかったか。

 成田 大便も探してみますと……。

 筒井 探すほどのことじゃない(笑)。

※約7000字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(筒井康隆×成田悠輔「AIが文学的に駄目な理由」)。全文では、以下の内容が語られています。
・自然主義リアリズムは「嫌い」
・作家がつまらなくなった?
・今、描くべきタブーは

文藝春秋

この記事の全文は「文藝春秋PLUS」で購読できます
AIが文学的に駄目な理由

■成田悠輔の聞かれちゃいけない話

第10回 椎名林檎 ラブソングを書くのが苦手。くだらないって思ってました

第11回 本庶佑 作文上手な人、文科省に挨拶回りする人が予算を取っている

第12回 黒田東彦 いまは金融も財政も引き締める時です

第13回 Ado 私の不登校体験

第14回 水原希子 山口智子さんと瞑想とSNS

第15回 マルクス・ガブリエル 倫理的資本主義が必要だ

第16回 筒井康隆 AIが文学的に駄目な理由

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】愛子天皇は歴史の必然 保阪正康/転倒・骨折を防ぐ新常識/赤根智子さんの素顔

2026年10月号

2026年9月10日 発売

1300円(税込)

Amazonで購入する 目次を見る
次のページ 写真ページはこちら