「地方は嫌だ」
とくに東京の大学出身者たちは口を揃えて「地方は嫌だ」と言った。地方出身者も本心では東京勤務を望んでいるのが透けて見えた。
研修の終盤、総仕上げとして保養所でのレクリエーションが企画された。保養所は、軽井沢、菅平、伊豆、那須の4カ所にあり、4組に分かれて泊まり込みを行なうという。関西生まれ関西育ちの私は昔から軽井沢という地名に憧れがあり、第一希望に書き、そのまま希望が通った。
実際に行ってみると、そこでも私は居場所を見失った。軽井沢組は体育会系の割合が高かった。彼らが大声で笑い、酒を飲み、肩を叩き合う。その輪の中、私はジャイアンたちの中へ放り込まれたのび太のようだった。
ボウリング大会が開催され、人事部が「利き腕禁止ルール」を提案した。
私は子どものころ、左利きを無理やり矯正された影響で左手でも多少字が書けた。そのおかげで左投げでもスコアが出て、結果的に優勝してしまった。輪から外れた地味キャラが唐突に優勝をかっさらったのだ。
「急になんやこいつ」
半分冗談めいた空気だったが、同期たちから妙な視線を感じた。
軽井沢での最終日の夜、人事部公認で酒が解禁された。最終日の解放感も手伝ったのか、宴会は時間が経つにつれて荒れていった。腕相撲、組み手、大声のカラオケ、酔った勢いで肩を組む者たち。話題は相変わらず新人課長と配属先だった。
「絶対、銀座行きたい」「いや、難波のほうが稼げるだろ」「新宿は一発あるぞ」
私はその輪から少し離れ、壁際でウーロン茶を飲んでいた。
深夜1時すぎ、頃合いを見計らって、ひとり静かに部屋へ戻ろうとしたときだった。
「おい!」
