胸ぐらをつかまれ、壁際に…
後ろから肩を摑まれた。振り返ると、体育会系の同期数人が立っていた。かなり酔っている。
「おまえさぁ、飲み会にも来ない。ここでもみんなから距離置いてるよな」「ひとりだけ壁作って、何カッコつけとんねん。自分だけ頭ええとでも思てるんか?」
胸ぐらを摑まれ、壁へ押し付けられる。体格は彼らのほうがひと回り大きい。
アルコール混じりの圧力で迫られ、逃げ場がない。私は怖くて、どうしたらいいかわからず、固まっていた。
そのときだった。
「やめろよ」
別の同期があいだへ割って入った。
「何やってんだ。暴力はダメだろ。おまえら、酔いすぎだぞ」
東京採用組の尾川君だった。彼の言葉をきっかけに、摑まれていた胸ぐらが放された。
「…‥悪かったよ」
誰かが吐き捨てるように言った。
私は何も言わず、そのまま部屋へ戻った。何か言い返すべきだったのか……。言いようのないわだかまりが胸にくすぶり続け、なかなか寝付けなかった。
酒を酌み交わし、肩を組み、相手のフトコロへ飛び込む。体育会系の論理が幅を利かせる世界で、自分の居場所を見つけられるのだろうか。不安だけが眠れない夜の天井に広がっていった。
運命の配属発表
研修最終日――。2カ月続いた研修所生活もいよいよ終わりを迎えようとしていた。講堂には朝から妙な緊張感が漂っていた。この日こそ、配属発表の日なのだ。
新人たちにとって、ここが人生最初の分岐点だった。どの支店へ配属されるかによって、その後の人生が変わる。少なくとも同期たちはそう信じていた。
人事部長が壇上へ現れ、説明を始めた。
「それでは配属先を発表します」
配属は北から順番に読み上げられた。
「札幌支店――」
名前を呼ばれた6人の顔に陰が差した。誰も露骨には言わないが、札幌配属は“ハズレ”である。首都圏志望者が多い中、北の支店へ飛ばされることへの悲壮感が表情に出ていた。
その後、池袋、新宿、銀座、横浜駅前と首都圏の支店が読み上げられると、空気は一変した。小さく拳を握る者、隣と顔を見合わせてニヤける者、首都圏支店配属の24名には歓喜が広がっていた。