日本では2024年12月に公開された、映画『どうすればよかったか?』。統合失調症を発症した姉と、彼女を玄関に南京錠をかけて閉じ込めた両親の姿を、弟である藤野知明監督が、20年にわたって記録したドキュメンタリーだ。

 日本でも大きな話題を呼び、ロングランを続けた同作が、いま、韓国で異例のヒットをみせている。その背景にあるものとは? 韓国在住のノンフィクションライター・菅野朋子氏が取材した。

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 土曜日の正午。ソウルにある80席ほどのミニシアターは満席だった。意外だったのは、20~30代と思われる若い世代の観客が圧倒的だったことだ。

韓国ではこの7月29日に上映開始され、ロングランヒットしている『どうすればよかったか?』(韓国・弘大(ホンデの映画館「KT&G SangsangMadang Cinema」/筆者撮影)

「これは必ず観ておくべき映画だから」

 隣り合わせたのも30代半ばという男女で、この映画をどう知ったのかと訊くと、友人から「配信でもやらないし、これは必ず観ておくべき映画だから」と強く勧められて、久しぶりに映画館に足を運んだ、と言う。

 統合失調症の姉と家族の様子を、弟である藤野知明監督が記録した日本のドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』が、韓国で静かなヒットを続けている。

 1万人でヒットといわれる韓国ドキュメンタリー界で、7月29日の公開から3日間で観客数は1万人を超え、ミニシアターだけでの上映から大型シネマコンプレックスのアートハウス(インディペンデントや芸術作品を上映する)でも上映されるように。9月には観客動員数は10万人を超え、“異例のヒット”として韓国メディアがこぞって取り上げた。

 インディペンデント映画を主に手がける配給会社「ATNINE FILM」は当初、目標観客数を3000人に設定し、「状況によっては、自社の映画館での単独上映も視野に入れていました」という。

映画館のロビーに置かれたモニターでは『どうすればよかったか?』映像が流れていた(韓国・弘大(ホンデの映画館「KT&G SangsangMadang Cinema」/筆者撮影)

韓国における統合失調症への印象

 実は、この映画が公開されると聞いた時、統合失調症を素材にした映画が韓国で受け入れられるだろうかと思っていた。それというのも、韓国では2010年代半ばに統合失調症患者に襲われ、担当医師やアパートの住民が死亡する事件が立て続けに起き、統合失調症=危険というイメージが広く認識された雰囲気があったためだ。再び同社の話。

「統合失調症という言葉が韓国でどう消費されてきたかを知っていましたから、(公開に)怖さもありましたが、韓国の観客がどんな反応をするかが知りたいと思いました。そのため、マーケティングにおいては、ストーリーが刺激的に消費されないようにすること、この疾患を理解できるよう十分な情報と議論の場を提供することなどを原則としました。

 ところが、春に開催した『日本インディフィルムフェスティバル』で同作品だけが事前の前売りで完売。公開前から高い関心が集まっていたんです。すでに日本で大ヒットしたことを知っていて注目していた人がいたことや、作品のユニーク性、統合失調症の症状を見せる姉と家族の時間を、弟である監督が直接記録したドキュメンタリーという点が、観客の知的好奇心を刺激したようです」