10月4日、日本未公開の台湾映画の名作・話題作を紹介する「台湾文化センター 台湾映画上映会2026」の第9回が、シネ・ヌーヴォ(大阪市)で開催された。今回上映されたのは、2025年の作品『深く静かな場所へ』。上映後に行われたトークイベントには、同作のシェン・コシャン監督がオンラインで登壇。聞き手を上映会キュレーターであるリム・カーワイ監督が務めた。
◆◆◆
『深く静かな場所へ』
結婚し、妻の両親と同居して幸せに暮らしてきた夫婦。妊娠と母の死をきっかけに、妻の様子が変化していく。妻の長姉は精神を病んでおり、次姉は海外に移住して音信不通。妻は同居する父親をなじり、一緒にいること、2人きりになることを拒否し始める。抑圧された日常の中で封印されてきた、幼い日の性虐待――。ドキュメンタリー映画監督として25年のキャリアを持つシェン・コシャン監督、初の長編劇映画作品。アジアで絶大な人気を誇るアリエル・リン、ジョセフ・チャンが主演し、金馬奨主要7部門にノミネートされた。
監督:シェン・コシャン/出演:ジョセフ・チャン、アリエル・リン、チン・シーチェ、ディン・ニン/2025年/台湾/108分/©風起娛樂
最初はドキュメンタリー企画だった
リム・カーワイ(以下、リム) 監督はこれまでドキュメンタリー映画を20本以上も撮ってこられましたが、今回初めての劇映画となります。
シェン・コシャン監督(以下、シェン) この映画はそもそも、8、9年前ほどにドキュメンタリーとして追いかけていたものがもとになっています。それは幼少期にトラウマを抱えたある女性にフォーカスを当てたものでした。しかし、いざドキュメンタリーとしての公開を考えた時に、今なお遠くへ逃げたいというような葛藤を抱えているその女性のことを世に晒していいのか、家族のことを暴いてしまっていいのかと悩み、この題材をもとに劇映画を撮るほうがよいのではと考えたのです。
劇映画に挑戦するのは、最初はとても怖かったです。撮り方が異なりますし、映画を通じた観客とのコミュニケーションの仕方も異なってくる。さらに、撮影チームの編成も、ドキュメンタリーだと5~6人で済むものが、劇映画では70~80人にもなる。すべて初めてのチャレンジでした。
最初はモニターの前にすわって、映像を見ながら演出する、いかにも映画監督になった気分で撮影をしましたが、それが私にはしっくり来なかった。何を撮影していいのかわからないという状態に陥り、2日目からはやり方を変え、ドキュメンタリー映画と同じ撮影法を使うことにしました。つまり自分で実際にカメラを持って、被写体に近づいて撮影したわけです。そうすると、撮りたいものがうまく撮れるようになってきましたし、予想外のことが発生してもすぐにカメラを向けて撮影することができるようになりました。

