では、「正確に推論し実行する」対象とは何か。xAIのエンジニアたちの発言がその答えを示している。図表3-03では、グロック3とグロック4の公式発表会と、グロックを完全自動運転(FSD)やオプティマスに統合する役割を担うテスラAI担当バイスプレジデント(VP)のアショク・エリュスワミ氏が26年に登壇したAIカンファレンスでの講演テキスト(総語数2万1266語)から、頻出語を抽出した。「運転(driving)」「車両(vehicle)」「ニューラル(neural)」「ネットワーク(network)」「ロボット(robots)」「行動(action)」「電力(power)」などが上位に並ぶ。トップ20の約半数が、物理世界・自動運転・ロボットに関わる語彙だ。

 エリュスワミ氏が語るのは常に、この文脈だ。「どう物理空間で推論し、車を動かすか」。マスク氏が狙うグロックの役割とは、3次元の物理世界に実在するテスラの人型ロボット(オプティマス)、FSD、さらには工場を、自律的に駆動させる「物理世界のAIエンジン」なのだ。スマートフォン(スマホ)上の会話アシスタントとは、そもそも目指す目的地が違う。

グロックが自動運転テスラ車のドライバーに

「ヘイ、グロック。そこの駐車場に入れて」

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 26年6月、マスク氏はXのポストで「この(走行判断)機能は3カ月ほどで実装される」と宣言した。テスラのFSDに、ユーザーがグロックを介して音声で直接指示を出せるようになるという発表だった。エリュスワミ氏もXで7月、ユーザーからの同機能への要望に「Working on it(取り組んでいます)」と返し、開発が順調に進んでいることを明かした。

 それまでのグロックは、車載AIとして情報検索やナビ目的地の設定はできたが、FSDの「走行判断」には介入できなかった。26年秋に実装予定のアップデートでは、「次の交差点を右に曲がって」「入り口の近くに停めて」という自然言語の指示がFSDのプランニング層(走行経路を判断する制御層)に直接渡されるようになる。大規模言語モデル(LLM)が「意図」を解釈し、自動運転システムの判断に組み込まれる構造だ。人間が「どこへ行くか」を告げ、車が「どう走るか」を決める、いわばAIドライバーへの道がいよいよ現実味を帯びてきた。

 技術的には、クラウドベースのLLM推論にかかる1~5秒という応答時間は遅く、安全運転制御に必要な0.05~0.1秒には及ばないため、現時点ではグロックとFSDは意図的に分離したアーキテクチャーを持つ。グロックは高レベルの「意図」だけをFSDに渡し、瞬時の走行判断はFSDのニューラルネットワークが担うという。この分担は今後の進化の余地をあえて残した設計でもある。