頻繁に報じられる“感動ニュース”
中国には行方不明の子どもを持つ保護者が登録する「宝貝回家」(baby come home)というウェブサイトがあるが、そこにも、中国全土の誘拐・行方不明者の公的データは掲載されていない。
しかし、断片的な情報をつなぎ合わせると、中国では長年、誘拐や人身売買の事件が起きており、現在まで続いていることは明らかだ。中国で十数年ぶりに親子が奇跡の再会を果たした、などという「感動」のニュースも1年に数回報道され、こうした報道を目にするのは珍しいことではない。
2015年には、2歳半で誘拐された子どもを探して中国全土をバイクに乗って探し回り、24年後についに発見するという実話に基づいた映画『Lost and Love』(中国名:失孤)が中国で公開された。香港の俳優、アンディ・ラウが父親役を演じたことで話題になったが、「感動ストーリー」という側面が強く、政府批判につながるものではなかった。
映画で描かれた「人身売買の実態」
限りなくノンフィクションに近いとされ、中国で上映禁止となった映画に『盲山』(Blind Mountain)がある。2007年に中国で制作されたが、何度も検閲が入って多くのシーンがカットされた挙句、中国では上映できなかった。日本では2025年7月に1週間だけの限定で公開されたが、ロングランヒットとなり上映期間が延長されたという異例の作品だ。
私はこの映画を観て、あまりの痛ましさとリアリティに胸が苦しくなり、中国の人身売買の実態は日本人の想像をはるかに超えるものだと実感した。日本人なら「必死になれば逃げられるのでは……」「交番に駆け込めば……」と考えるが、それは無理なのだ。
同映画では、就職に困っていたある女子大生が業者に「いい仕事がある」とたぶらかされ、農村に連れていかれるところから始まる。そこで飲み物に混ぜた睡眠薬を飲まされて、身分証や携帯電話、現金をすべて奪われ、気がついたときには業者は姿を消しており、ある農家の女性に「あなたを買った。あなたは今日からうちの嫁になった。私たちはあなたのために大金を支払ったのだ」と言い渡される。