もちろん、現場や会社だけを責めれば済む話ではない。ただ、「謝れば終わる」と思って頭を下げ続けることで、逆に要求が膨らんでしまうケースがある。この構造は、現場で働く側も知っておいたほうがいい。

震災の最中に鳴った「荷物はまだですか」

 そして、忘れられないのが東日本大震災のときのことだ。物流網が寸断され、道路も鉄道も止まり、燃料すら手に入らない状況の中、それでも、「荷物がまだ届かないんですけど、いつ届きますか?」という問い合わせの電話がかかってきたことがある。

 テレビでは津波の映像が延々と流れ、被災地では多くの人が生死の境をさまよっている、そんな最中に、だ。もちろん、電話をかけてきた客自身は被災地から離れた場所にいて、状況を正確に把握していなかったのかもしれない。

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 それでも、あの非常時に「荷物の遅延」を気にする感覚に触れたとき、返す言葉が見つからなかった。同時に、それだけ「時間通りに届く」ということが当たり前すぎるほど当たり前になってしまっている社会の異常さにも気づかされた瞬間だった。

なぜそこまで怒るのか

 こういう理不尽なクレームに直面するたび、「なんでこの人は、ここまで怒るんだろう」と考えるようにしていた。答えが出ることはほとんどない。それでも、想像することはできる。

 会社では上司に理不尽に詰められても、言い返せない。家に帰れば、誰とも話さない。

 そんな日々の中で、唯一「客」という立場で強く出られる相手が、たまたま目の前にいる配達員だったのかもしれない。