マツコ・デラックス ©文藝春秋

 『かたせ梨乃が進駐軍の前で踊り狂った時代…とマツコ』という番組タイトルだが、かたせ梨乃が出演しているわけではない。このシリーズは、あるものが最も輝きを放っていた時代をマツコ・デラックスと共に振り返る番組。番組名は五社英雄監督の『肉体の門』の一場面から採ったものだろう。前作は『仲村トオルが地井武男にワッパを掛けられた時代…とマツコ』と題して“不良”文化を扱ったが、今回は「風俗」だ。

「今日のVTRはなかなかのオススメだらけ」とマツコが言うように冒頭から『飛田新地』の映像に驚かされる。神秘のベールに包まれ滅多に見ることができない光景だ。売春防止法が施行され、遊郭から、あくまでも“自由恋愛”を楽しむ料亭に生まれ変わった飛田新地。その映像に添えられた「当番組の趣旨にご賛同頂いた料理組合の協力の元、撮影しています」というテロップがその異例さを物語る。

 さらに番組は「風俗創成期」として吉原遊廓についても映画『吉原炎上』を引用しながら、その時代背景や成立過程、遊女たちの光と陰を解説。そして太平洋戦争敗戦後、公娼制度が廃止され遊郭が消滅すると、いわゆる「パンパン」などと呼ばれる私娼があらわれてきたことも描いていく。一般的に「パンパン」という言葉は使用を自粛することが多いが、この番組ではあえてそのまま使用。覚悟と信念が窺える。彼女たちは身を守るため徒党を組み、やがて東京では“三大パンパン一家”が形成されていった。中でも有楽町=ラクチョウのお時は500人の娼婦を率いたというが、当時19歳の処女だったというから驚きだ。彼女はラジオ番組でパンパンたちの置かれている厳しい現状を訴えた。だが、それが内情を公にしたとして追放されてしまう。なんと哀しい話だろうか。番組は最後、74歳まで街に立ち続けた伝説的娼婦「ヨコハマメリー」の生涯を追って締められた。

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 ずっしりと見応えのあるVTRを見終わった後、「こんな番組なの?」とマツコがつぶやいたが、視聴者の多くも同じ感想だろう。こんなに骨太で濃度が濃いとは思わなかった。テレビで風俗史を紐解く場合、どうしても男性側からの性的な目線で語られることが多かった。けれど、風俗は女性たちが社会と闘ってきた歴史でもある。その女性たちの精神性に対する敬意と、それを描き切ろうとする強い思いと覚悟が伝わってくる番組だった。

『かたせ梨乃が進駐軍の前で踊り狂った時代…とマツコ』
日本テレビ系(10/8放送)