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中国の地方都市で「世界なんとか大会」が大増殖している理由

ハッタリでも時流に乗らなければいけない

2019/01/14
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 去年、個人的にもっとも印象深かった中国関係の仕事が、江西省南昌市という地方都市で10月に開催された「世界VR産業大会」というイベントのお手伝いでした。その名の通り、バーチャルリアリティーのイベントです。

 お手伝いといっても、アテンドのようなスマートなものではなく、現場で日本企業ブースの日本人担当者が不在のときに代わりに案内するような「ガテン系何でも屋」のお仕事でした。中国で「保安」とか「特勤」などと呼ばれるガードマンの仕事もしたわけです。

「世界VR産業展」の様子。会場には子ども連れが多かった ©山谷剛史

中国のガードマンは大変ですね

 中国のガードマンはなかなか大変な仕事です。トラブルを起こす来場者にはいくつかのパターンがあり、「ブースでの列に並ばない人」「並ばないどころか、いきなり外からやってきて、多くの人が並んで待っていた機械に触れて遊ぼうとする人」「パンフレットを強引に持って行ってはすぐに投げ捨てる人」「ブースの椅子を勝手に持って行ってしまう人」「ブースを閉じるときにまだ遊ばせろと子供をダシに使ってゴネる人」にまとめられます。

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 困ったことに注意すると逆ギレする上に、怒りながら「ここは何の展示をしているんだ!」と聞くのです。一生懸命説明しても、ほぼすべての逆切れした人が「そうかい、そうかい」と立ち去っていきます。中国のガードマンは大変ですね。

昔のままのユルい中国の雰囲気が残っている街

 この大会の一つの側面としては市民向けのエンタメイベントです。江西省は「日本の都道府県クイズで最後まで出てこない北関東の県」のような、中国のマイナーすぎる農業省です。そして、南昌といえば、中国ライターの安田峰俊氏も感動して「意識低すぎてやばい」とツイートするほど、昔のままのユルい中国の雰囲気が残っている街なのです。

 そんな南昌の街中で「世界VR産業大会」の看板が掲げられ、繁華街の巨大な電光掲示板でも映し出され、地元のラジオ・テレビ・新聞などのマスメディアでも繰り返し紹介されました。だからこそ「おらが街に世界的イベントがやってきた!」とばかりに、ものすごい数の地元の市民が押し寄せてきました。

遊べる施設には人が集まるが…… ©山谷剛史

 コミケ会場さながらの熱気の中、いろいろ展示を見ましたが、「これはスゴイ!」というサービスやソリューションはありませんでした。スゴイわけではないけれど、会場のすべてのブースで小さな子供が体験したり、VRを使った学校向け教育ソリューションを展示する企業があるあたりが違うなあと思いました。というのも医学的に子供が立体視すると斜視になるために、VRの利用はあまりお勧めできないといわれています。そうした中で、医学的な心配もなんのその、「子供にもハイテクを!」「VRを!」という姿勢に、“科学実験先進国”中国を感じざるを得ません。