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羽生を夢見た少年たち

 羽生を輩出した将棋道場。多くの子どもたちが羽生を夢見て、八王子将棋クラブに通い、10人以上の棋士が生まれた。タイトル獲得、棋戦優勝の実績がある棋士だけでも、阿久津主税八段(36歳)、甲斐智美女流五段(35歳)、村山慈明七段(34歳)、中村太地七段(30歳)、大橋貴洸四段(26歳)、高見泰地叡王(25歳)、増田康宏六段(21歳)らがいる。

 中村太地七段は、2017年に羽生から「王座」のタイトルを奪った。小学2年のころに東京の府中に引っ越す。道場は周りにいくつかあったが、八王子将棋クラブには同世代の子どもがたくさんいて、禁煙だったのが通う決め手になったと語る。

「とにかく雰囲気がよかったんです。強い人に勝ってもその場では褒められないんですけど、あとで八将タイムスを見たらきちんと取り上げてあって、かなりうれしかったですね。たまに将棋以外のボードゲームをやっても怒られませんでしたが、礼儀については多く指導していただきました。子ども特有の早指しで、そっぽを向いたりしていると注意されましたし。マナーの悪いお客さんは、場合によっては出入り禁止になったこともあったように記憶しています」

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羽生善治現九段に指導対局してもらう中村太地少年

 常連だけでなく、夏休みや大会だけ参加した子どもも多い。それでも、八木下さんは覚えていた。また、なかなか実力が伸びない子どもにも目を向けた。八木下さん自身が考案した「カード将棋」は、カードを1枚引いて、「飛車」と書いてあったら飛車、「金」なら金将を動かさないといけない。もちろん、これで将棋が強くなるわけではないが、実力に差があっても友達の輪の中に入って、対等に遊ぶことができる。

道場の最終日に訪れた村山慈明七段
同じく最終日に訪れた増田康宏六段

将棋ブームでも、道場の経営は厳しい

 ここ数年、将棋の注目度が上がっている。一昨年から始まった「藤井聡太ブーム」は、ワイドショーで対局の結果だけでなく、対局中の食事まで報道された。「ひふみん」こと、加藤一二三九段のテレビ出演、羽生の国民栄誉賞受賞など、話題に事欠かない。

 だが、一般的な道場の経営は厳しいという。

「職業にするのはきついですね。私のところはまだよいほうだったと思うけど、道場経営者が集まるとみんな『やめたい』といっていたもの。狭い世界ですから、道場同士がお客さんの取り合いという感じじゃないですか。だから、近接している道場は全部つぶれちゃいますよね。

 いま増えているのは、子どもなんです。子どもは料金が安いから、採算が合わない。藤井聡太さんのブームがあっても、苦しい道場が多いんじゃないですか。若い人が結婚して、お子さんを大学に行かせるとなると、できる商売じゃないです。でも、若さのパワーがないとできない。楽な商売に見えるかもしれないけど、結構、肉体労働なんですよ。ものを仕入れたり、掃除も大変ですからね」

日本将棋連盟から八木下さんに送られた感謝状