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春日太一とジェーン・スーが語る「デートにふさわしい映画」と「東京のもてない街」

春日太一 ×ジェーン・スー『泥沼スクリーン』対談

note

高校時代のイケセイと東武百貨店

春日 ぼくの高校時代はほぼ名画座とプロレス会場なんですけど、スーさんはどんなところで遊んでいたんですか?

スー 高校は埼玉だったので、渋谷はほとんど行ってないんですよ。学校終わって渋谷に着くころには夜だもん。だから池袋。池袋西武百貨店です、イケセイ。

春日 ぼくは池袋だと東武でした。高校は新大久保にあったんですけど新しくできた東武のメトロポリタンプラザに旭屋書店があって、こんな大きな本屋があるんだって入り浸った記憶がありますね。

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スー 東武百貨店といえば、ブラウン管のテレビが30個くらい並んでる待ち合わせ場所がありましたよね。80年代の人が想像する近未来の精一杯っていう風情の。あれ、もうないんですよ。

春日 メトロポリタンプラザはルミネになり、あの手前の噴水もなくなりましたしね。

スー そうそう。池袋もお洒落な感じになっちゃって。

池袋の「童貞喪失」

春日 池袋がなんかね、友人のサンキュータツオさんの言い方を借りると、童貞喪失しているというか。

©平松市聖/文藝春秋

スー あー。

春日 彼女ができた。池袋に彼女できたなあ、って感じしますよね、なんかあか抜けてきて。もてる街になりました。

スー それこそ東京で彼女がいない地区ってほとんどないのでは。

春日 高円寺、阿佐ヶ谷でさえも彼女いるじゃないですか。

スー 同棲20年目くらいの女がいるでしょうね。

春日 大久保も最近彼女できましたね。東中野くらいかなあ。あ、でも東中野も隠れて彼女いそうな感じもする。

スー 私は文京区小石川の出身なんですが、昔はめちゃくちゃイナタイ街だったのに、今はいわゆる「タワマンに棲まう」みたいな感じの街になりつつあって。大きいマンションだと500人から1000人規模で新しい人が引っ越してくるんで、街の顔が変わっちゃうんですよ、一瞬にして。昔よく歩いていたところを散歩すると、なんかハイエンドな人たちがわーって歩いてて、居場所がない。端のほう行かなきゃ、という気分に……。

春日 東京原住民のほうが東京にいて肩身狭いところありますね。ただ、僕の中にあるのは、池袋から一駅のところはだいたいもてない街という法則があります。椎名町、目白、大塚、北池袋、要町。それから、板橋。中学の同級生が住んでるんで最近、板橋によく飲みにいくんですけど、板橋いい具合にもてないですよ。地方から友人が東京に引っ越してくるときにどこに住めばいいと聞かれたら、とにかく板橋に住めって言います。あそこなら「木綿のハンカチーフ」みたいにならない。

スー 「都会の絵の具」がないところ。

もてない街にある、チェーン店

春日 あとは西武線沿線ですね。

スー 西武どっち線ですか。

春日 両方ですね。でも新宿線ですかね。下落合、中井、新井薬師前、沼袋、野方、都立家政。

スー なるほど。

春日 西武線沿線には「福しん」っていう安い中華チェーン店があって、あれがある街はもてない烙印を押されているようなもの。「福しん」がある街はもてない。