「本物を目にしたとき、手が震え、汗が一瞬にして吹き出てくるのを感じました」
これまで多くの名作に触れてきた中国絵画研究の第一人者、板倉聖哲さんはそのときの衝撃をこう振り返る。
北宋時代を代表する画家、李公麟(りこうりん/1049?~1106)の「五馬図」。清王朝終焉の混乱期に日本へ渡り、昭和3(1928)年、昭和天皇御即位大礼の祝賀記念展覧会で公開され重要美術品に指定された。しかし、それ以降は表舞台から姿を消す。世界中が「幻の神品」の在処を探しながら、約80年もの間、その行方は杳として知れなかった。
昨年、クリスティーズのオークションで宋代に蘇軾(そしょく)が描いた水墨画が約68億円で落札されたが、この「五馬図」は「値段がつけられないほど貴重なもの」だという。
「現在、中国絵画の最高傑作といわれている作品でも、当時の評価は決して高いものではありませんでした。しかし、『五馬図』は南宋内府に所蔵され、元時代の文人たちの憧憬の的となり、清の乾隆帝に愛蔵されてきました。つまり、歴代王朝において、常に神品として君臨し続けてきた王道の作品なのです」
現在は東京国立博物館に所蔵され、顔真卿(がんしんけい)展で公開されたが、『李公麟「五馬図」』として原寸オールカラーで羽鳥書店より3月に画集が刊行される。解説を担当した板倉さんをはじめ、撮影・デザインも日本最高峰の顔触れを揃えた。その色鮮やかさ、筆の流麗さには思わず息を呑む。