プロ棋士に「今までで一番うれしかった日はいつですか」という質問をぶつけると、その返答の大多数が「四段になれた日」というものだろう。一人前として認められると同時に、奨励会における年齢制限のプレッシャーからも解放されるのだ。
3月3日、また新たなプロ棋士が誕生した。出口若武(23)と黒田尭之(22)という2名の新四段である(四段昇段は4月1日付)。彼らにとって最良の日となったであろう、第64回奨励会三段リーグ最終日はどのような一日だったのか。
奨励会は「三段になってやっと五合目」と言われる
三段リーグはその名の通り、三段同士のリーグ戦を半年かけて18回戦行う。その成績上位者2名がプロ(四段)としてデビューできるのだ。今回のリーグ参加者は33名、その中で2名という狭き枠を争う。日本将棋連盟のプロ棋士養成機関である新進棋士奨励会は「三段になってやっと五合目」と言われるのも無理はない。
最終日に行われる18・19回戦(今回は奇数人数のリーグのため、抜け番がある)を前にしての、昇段争いの状況を整理してみよう。
この日、四段昇段の可能性があったのは以下の5名。
(10)出口若武 14勝2敗
(27)石川優太 13勝3敗
(3)黒田尭之 12勝4敗
(4)井田明宏 11勝5敗
(15)伊藤 匠 11勝5敗
カッコ内の数字はリーグ順位である。前期リーグの成績で順位分けされ、同星で並んだ場合は順位上位の者が昇級する(頭ハネという)。これはプロ棋戦の順位戦と同様のシステムだ。前期あと1勝していれば……という後悔の念に苛まれたくなければ、常に全力投球するのみ。リーグ途中で負けが込んで昇段の目がなくなっても、三段リーグに消化試合はないのだ。
何が起こるか最後までわからないのが三段リーグ
まず出口は1勝すれば文句なし。仮に連敗しても、石川か黒田のいずれかが1敗すれば自身の昇段が決まる。石川は連勝すれば四段昇段だが、1敗するとその時点で黒田に自力昇級の権利が移る。黒田は自身が連勝しても石川の1敗か出口の連敗が必要だ。井田と伊藤に至っては自身の連勝が最低条件で、あとは上位陣が崩れるのを待つしかない。
数字上では圧倒的に出口が有利な状況だ。しかし何が起こるか最後までわからないのが三段リーグである。この日の1局目となる18回戦、上記の5名の中で勝ったのはなんと黒田だけだった。
この結果、1局を残して出口の昇段が決まる。自力昇級の権利は13勝4敗の黒田に移り、同じく13勝4敗の石川は順位差により、昇段には自身の勝利と黒田の敗戦の双方が必須となった。