両者ともにそろって、藤井聡太七段との因縁がある
やがて「最後まで指すんじゃないですかね」という声が繰り返された。誰が最後まで指すのかは聞くまでもない。つかみかけていた自身の夢が目前で砕け散る、その事実を認めきれない一人の若者だ。
第64回奨励会三段リーグの最終結果は以下の通り。
・14勝4敗 出口若武(四段昇段)
・13勝5敗 黒田尭之(四段昇段)
・13勝5敗 石川優太(次点獲得)
最終結果が確定したのちに行われるのが、新四段への共同インタビューだ。その場で出口は「強さをいつまでも求めていける棋士になりたい」と語り、黒田は「1つでも多く勝ちたい」と意気込みを新たにした。
実はこの両者ともにそろって、藤井聡太七段との因縁がある。昨年に藤井が優勝した新人王戦、その決勝三番勝負を戦ったのが出口だった。惜しくも都成竜馬三段(現五段)以来の奨励会員による棋戦優勝はならなかったが、その戦いについて「藤井七段と指すことで自身の弱さが浮かび、反省もしましたが、指してよかったです。大舞台の経験が三段リーグに生きました。今回のリーグでは、新しく指し始めた角換わり戦法がうまくいきました」と語った。
関西所属のワンツーフィニッシュは藤井・大橋以来
また黒田は、藤井が四段昇段を果たした第59回リーグで次点を取っていた。藤井との対戦はなかったが、藤井とともに昇段を果たした大橋貴洸四段と戦って敗れている。結果的にはその一戦が、当時の大橋と黒田の運命を分けた。そして出口も第59回では黒田と同じく12勝6敗という成績で、リーグにて藤井と大橋の双方に敗れていた。やはりどちらかに勝っていれば、立場が入れ替わっていた。
黒田は当時について「あの時は最終局が始まるときに自力ではなかったので、次点で悔しいというよりは、次点が取れて満足という感じでした」と振り返る。そして「今回、最終局を負けた時に『結果は仕方がないけど、競争相手のことは気にしないようにしよう』と考えていました」と続けた。
兵庫県出身の出口と愛媛県出身の黒田は両者ともに関西所属。関西所属三段のワンツーフィニッシュは、第59回の藤井・大橋以来というのも何かの巡り合わせか。ちなみに愛媛県出身の棋士が誕生するのは森信雄七段以来、43年ぶりのことだった。
奨励会終了後、恒例となっている打ち上げで両者は乾杯。その場で奨励会幹事の小倉久史七段と近藤正和六段が祝いを述べる。出口と黒田にとってはこれからが本当のスタートだが、両者とも一時の休息時間では笑顔を見せていた。
写真=相崎修司