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連敗で昇段が決まった棋士はレアだと話題に

 ただ、黒田はある意味で、すでに四段昇段が決まっていた、とも言える状況だった。黒田の敗戦及び石川の勝利によって、リーグ最終結果が1位出口、2位石川、3位黒田となるわけだが、三段リーグの3位には「次点」が与えられる。この次点を2回取ると四段昇段の権利が生じるのだ。

笑顔で取材を受ける出口新四段

 黒田はすでに一度の次点経験があるので、最終戦を前にして四段になれることは確定していた。ただ「次点2回による四段昇段」だと、デビュー後に通常編入される順位戦C級2組の参加ではなく、「フリークラス」への編入となる。こちらは四段昇段後、10年以内に規定の成績(色々あるが、年間勝率6割以上が一つの目安)を取らないと、順位戦へ参加できず引退に追い込まれてしまう。ただ、過去に次点2回での四段昇段を果たした棋士(伊奈祐介、伊藤真吾、渡辺正和、渡辺大夢、佐々木大地の5名)の中で、順位戦を指せずに引退した棋士はいない。自身の運命が半ば決まった状態で迎える最終局を前にして、黒田の胸に去来したものは何だったのだろうか。

 最終19回戦はまず出口の敗戦が伝えられる。最終日の開始時点で昇段が決まっていないのにもかかわらず、連敗で昇段が決まった棋士はレアだと話題になった。1局目を終えた時点で、師匠の井上慶太九段に昇級を報告したが、その第一声は「情けないねえ」だったという。無論、喜びを隠した照れ隠しだろうが。

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そこで戦う者以外、誰も入らないのが不文律

「絶対に勝ちなさいよ」と発破を掛けられて臨んだ最終戦にも敗れ「リーグ前半はまあまあの内容で、このまま行ければと思いましたが、後半は不甲斐ないことになりました。ここ一番に弱く、将棋もひどかったので、もう少し頑張らないといけません」と今回のリーグを振り返った。

 続いて黒田も敗戦。「(四段昇段が半ば決まって)2局目は比較的楽な気分で指せるかな、と思っていましたが……」という心境を明かす。

新四段の初仕事は、自身の調査書(自己紹介)を書くこと

 すべてを決める石川―渡辺和史三段戦は死闘となっていたはずだ。はず、というのは誰もこの対局の様子を知ることができないからである。三段リーグが行われる対局室には、そこで戦う者以外、誰も入らないのが不文律となっている。取材陣はおろか、奨励会幹事ですら部屋には入らない。人生がかかっている対局を妨げることは、ほんのわずかでも許されない。

 同じ部屋で対局を行っていた三段が対局を終えて出てきたときに、多少なりとも様子を聞くくらいである。勝者がリーグ表に結果を押印するとき、それが三段リーグの結果を知るただ一つの瞬間なのだ。奨励会幹事がそれを確認して階下の記者控室に伝えるまで、我々にできることはただ待つのみ――。