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「79歳差対決」はなぜ接戦になった? 将棋と囲碁のゲーム性の違い

 杉内-大西戦は、大西初段が制している。大西初段は、後に新人王戦で優勝した有望な若手。内容はどうだったのか。

「接戦でした。戦いは、最新形ではなかったと思います。というのも、将棋と囲碁の最新形は、ゲームの特性上、ちょっと意味が違います」

 将棋の最新形は、駒の損得や詰みに直結しやすいものが多く、研究を知らないとそのまま押しきられてしまうことも珍しくない。しかし、囲碁の最新形は、将棋と質が違うようだ。

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「最新形を知らなくても、碁は打てます。囲碁の戦いは隅から始まりますが、最新形はひと隅の部分的な格好なんです。盤全体で決着がつくわけではないので、隅の攻防がわからなければ「手抜き」、つまりほかの場所に打てばそれなりに戦えます。ただ、井山さんはそういうところで絶対に逃げません。常に妥協しないで、勝ち上がってきた人です。

 ちなみに、中国や韓国の囲碁界は、将棋界と同様に集団研究が盛んで、自分ひとりでよい手に気づいても、みんなで研究して共有します。日本の囲碁界だと、大事な対局のためにとっておく人が多いでしょう。どっちが発展するかといったら、みんなで研究してレベルを上げていったほうがいいということになりますね」

「本当は死ぬまで将棋を指していたいんだ」羽生と戦った“明治男”の本音

 最近は強力な研究パートナーとして、AIソフトが加わった。

「将棋と同じように、囲碁もソフトの影響が強くなってきています。藤沢里菜さんは研究会を全部やめて、ソフトと研究しているらしく、将棋の豊島将之二冠と似ています。 

 ソフトを取り入れるのは若い人のほうが速くて、似ている碁が増えてきました。でも、トッププロのなかでは『私の棋風と違って、ソフトは中央思考ですから』と、ちゃんと理由を持って使わない人もいますし、若手でもソフトをやめた棋士はいます」

 ちなみに、将棋界で加藤一二三九段-藤井聡太四段戦に抜かれる前の年齢差記録は、1986年8月の順位戦C級2組、故・小堀清一九段(74歳)―羽生善治四段(15歳)戦の、58歳7カ月。小堀九段は1912年2月の明治生まれ。対局が終わったのは深夜で、羽生は睡魔と闘いながら朝まで感想戦を続けた。小堀はその期で3つ目の降級点がつき、引退が決まった。

「小堀―羽生戦の現場は見ていませんが、引退後に小堀先生に取材しました。『制度で引退することになったけど、本当は死ぬまで将棋を指していたいんだ』とおっしゃっていて、故・関根茂九段からも『お金を出しても指したいんだけど、ダメかね』って冗談っぽくいわれたことがあります。小堀先生が現役の最後に羽生さんと指したことは、うれしいことだったでしょうね。もっと若い人とも指したいという気持ちもあったでしょうけど」

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