「50歳を目前にして、2度目のデビュー。決意と覚悟を持って、もう一度、新人としてスタートします」
20年以上、主にT.M.Revolutionとして音楽活動を続けてきた西川貴教さんが、本名名義での活動を本格的に始めた。先月リリースしたファースト・アルバム「SINGularity」を引っ提げ、4月13日から初のライブツアーに臨む。
「初心に戻り、全国のライブハウスを回ります。アルバムのリリースに合わせて、各地でイベントやキャンペーンをやらせてもらったのも、本当に久しぶりで……。ファンのみなさんと一緒に、ゼロからひとつずつ積み上げていきたいんです」
誰もが知るヒット曲という財産をいったん脇に置き、再び“新人”から。真剣な面持ちに、覚悟のほどが窺える。
「一般的には冒険や挑戦をしなくてもいい年齢ですからね。『これ以上、何を望むの?』と言われるかもしれませんが、自分としては『もっと喜んでもらえるものを届けたい』という気持ちがあるんです」
T.M.Revolutionにおける作品づくりとは異なり、多彩なクリエーターと組むことで、ヴォーカリストとしてさらなる進化を図ろうということ。ミュージカルや子ども番組、おなじみの「消臭力」のCMなど、活躍の場は多々あれど、軸足を置くのはあくまで音楽。「歌にはこだわりたい」と力を込める。
今後の指針となるアルバムにするため、制作ではギリギリまで模索を続けたとか。パワフルで、時にドラマチックな歌唱はさすがの迫力だ。
「一曲一曲が実験のようでした。僕にやらせてみたいことをクリエーターの方々に投げてもらい、それに対応することで、僕の新たな表現が引き出され磨かれる。いわば『生のボーカロイド(音声合成技術)』ですよ(笑)。『これ、機械で加工したよね?』と思われるようなことを、あえてアナログでやったり。布袋寅泰さんからニコ動世代の若手まで、いろんな方が進んで参加してくださった。それだけでも歌い手冥利に尽きますね」
どんなにピッチ(音程)のいいボーカロイドでも、人間の生の歌声にはかなわないとの自負がある。歌詞の行間を読み取って表現できるのも人間の強み。だからこそ、“楽器”である身体のケアには投資を惜しまない。週3回のジム通いで鍛えた驚きの筋肉美も、伊達ではないのだ。
リスクを承知で再デビューに踏み切った背景には、進行性の難病を患い、長い闘病の末、2017年に逝去した母への想いもあるという。
「母の病気を機に『親にもらった大切な名前で勝負したい』と考えるようになったんです。10年近くタイミングを待って、ようやく実現したプロジェクト。誠心誠意取り組みます」
母の墓前に奮闘を誓う。
にしかわたかのり/1970年滋賀県生まれ。1996年ソロプロジェクト T.M.Revolutionとしてデビュー。「WHITE BREATH」などヒット曲を連発。2008年「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、琵琶湖畔での「イナズマロック フェス」を09年から毎年開催。昨年、西川貴教名義での活動を本格的に始動。