ロックバンド「くるり」の岸田繁さんが、本格的な交響曲の作曲に取り組んでいる。

 2016年に発表した「岸田繁 交響曲第一番」に続き、昨年「交響曲第二番」を完成させ、3月30日に東京での初演を行う。演奏を担当するのは、昨年末の京都、名古屋公演と同じく、「第一番」からタッグを組む広上淳一指揮の京都市交響楽団だ。

岸田繁さん

「普段は演奏する側なのに、見守ることしかできない。出産に立ち会うような気分です」

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 畑違いに思えるが、さにあらず。クラシック好きの父親に連れられて、子どもの頃から京響の演奏会に足を運んでいたという。また、07年にウィーンのオーケストラとアルバムを録音するなど、音楽制作にクラシックの要素を採り入れることも。京響から「オーケストラ作品を書いてみませんか」と打診された際も、迷わず快諾した。

 自身の希望で交響曲に挑戦することにしたが、さすがにハードルは高い。依頼した京響側も、できるかどうか、当初は半信半疑だったらしい。

 だが、完成した「第一番」はクラシックファンをも感嘆させる出来栄えで、「第二番」の企画につながった。

「『あいつがこんなことやりよったんか!』と最初の曲は衝撃と共に迎えられるけれど、次の曲では真価が問われる。その意味で『第二番』のほうが緊張感がありました」

「第一番」は五楽章構成の組曲的な作品。作曲そのものを楽しみながらも「全力を出し切って」書いた。一方、「第二番」では四楽章の古典的な交響曲の形式を重視した。対位法なども採り入れ、バロックの香り漂う洗練された仕上がりに。物語性もあり、持ち味である旋律美も随所で光る。

「リスペクトも込め、ポップスの世界の流儀は持ち込まないようにしました。自分にとっては逆にそれが新しい。茶室に入ったら、茶道の作法に従うようなもの。だけど点てるのは抹茶じゃないんです。例えば、エスプレッソを当たり前のように客に出すとか(笑)。ぼーっとしてたら出されたほうも気が付かず、『結構なお点前でした』と言うてしまうような感じですかね」

 交響曲のフォーマットという“衣”をまといつつも、中身はあくまで岸田繁の音楽。バンドであれオケであれ、表現したいものは同じ。伝え方の枠組みが違うだけだという。

「新しい器に入れて届けると、今まで伝わらなかった人にも伝わるかもしれませんからね。自分が作る音楽は“ソウルミュージック”でありたい。ジャンルとしてのソウルではなく、魂の伝達ができる音楽という意味です」

 ブラジルの作曲家、ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ」など、最近は民族音楽を背景に持つものに心惹かれるとか。その影響は作品にも。京風味のソウルフルな交響曲「第三番」に期待したい。

INFORMATION

「京響プレミアム『岸田繁 交響曲第二番』初演」東京公演
3月30日18時開演 東京オペラシティコンサートホール
https://www.mbs.jp/kishida-symphony/

 

※昨年12月の名古屋公演(広上淳一指揮、京都市交響楽団演奏)収録CDも発売中

きしだしげる/1976年京都市生まれ。大学時代に結成したバンド「くるり」のボーカル、ギター担当として98年メジャーデビュー。ほとんどの楽曲の作詞作曲を手がけ、ソロでも活動。2018年に発表したくるりの最新作『ソングライン』のリリースツアーが5月に始まる。京都精華大学特任准教授。