基本的に本連載は「これまで筆者が観てきた映画」について述べることにしている。
ただ、「タイトルだけは知っているけれども観たことはない映画」も、もちろん少なからずある。そうした作品を取り上げにくいのは、いざ観てみた時に「これ、どういう切り口で書けばいいのか」とか「この出来では書きようがない」とか、頭を悩ませる――どころか、書けなくなる危険性があるからだ。そのため必然的に、「あの作品ならこう書ける」と事前に想定できる映画を選ぶ傾向になっていく。
さて、ここであるレーベルを紹介したい。ディメンションという会社の「DIG」。旧作邦画のDVDの売れ行きが各社とも厳しい状況下にもかかわらず、マニアックな作品を次々に送り出している、素敵なレーベルだ。本連載でも『ふるさと』『文学賞殺人事件』などを扱わせてもらい、実にありがたく思っている。
ただ、一方で「タイトルだけは知っているけれども観たことはない映画」も多く出しており、「おお、これもソフト化したのか」と感心しているのだが、そうした事情で取り上げないできた。が、連載も八年目を迎えることだし、ここらで実験的に「DIG」から出ている未見の映画に何回かにわたり挑戦してみたいと考えた。どんな結果になるのか、期待半分、不安半分で。
まず今回は『悪魔の部屋』。中村れい子、ジョニー大倉主演、曽根中生監督による、にっかつロマンポルノ作品だ。
舞台となるのは、高級ホテルの一室。そのホテルのオーナーの御曹司と結婚した世志子(中村)は、謎の男(ジョニー)に監禁され、凌辱を受ける。何日にもわたって。
とにかく、中村れい子が素晴らしい。元々の顔立ちも裸体も日本人離れした美しさなのだが、それに加え、どれだけ理不尽な目に遭いながらも自らを律し続けるシャープな眼差し、気丈さを守ろうとする凜とした姿勢、強い意志を感じさせる張りのある声――。そこには崇高な気高さすら宿っているように映っていた。
一方のジョニーも見事だ。卑劣な暴行魔役らしく序盤からヌメり気を放っているのだが、どこかそれだけではない真面目で紳士的な部分も垣間見え、男のミステリアスさをより一層引き立てている。
物語の大半は密室のみで展開される。それを感じさせないほどの力が、この二人のたたずまいにはあった。気づけば、自らの犯した罪が跳ね返る静謐なラストまで、両者の芝居に釘づけになっていた。
男が女を監禁して犯す――というポルノにありがちな設定に腰が引けて観ないできたのだが、「食わず嫌い」はよくない。そう思えた。