前回に引き続き、マニアックな旧作邦画を出し続けるDVDレーベル「DIG」から発売の「タイトルだけは知っているけれども観たことはない映画」を取り上げる。
今回は『わが青春のイレブン』。これまで一度もソフト化されていなかった作品で、名画座やCS専門チャンネルでもあまりかかっていなかったのではなかろうか。観る機会自体が、そもそもほとんどなかったのだ。そのため当然、観たことはない。
いや、もし機会に恵まれていたとしても、観ることはなかったかもしれない。というのも――やくざ同士が抗争の決着を野球でつける岡本喜八監督の怪作『ダイナマイトどんどん』のような異色作品は別にして――スポーツを正面から描いた日本映画は、たいていが面白くないからだ。だから、このタイトルだとおそらくスルーしていただろう。
だが、前回の『悪魔の部屋』を観て「食わず嫌いはよくない」と痛感したことにより、あえて挑戦してみた。タイトルから予想できるのは、サッカーに青春を捧げる若者たちの爽やかな物語だが、いざ観てみるとその予想を全く覆すような展開が待ち受けていた。
舞台は伝統を重んじて厳しい校則が敷かれる名門高校。サッカー部では監督が勝利を追求して精神主義で生徒を抑えつけていた。自由な校風の学校から転校してきた谷川(森谷泰章)は部の雰囲気と合わず、練習を休んで女性とデート。その様子を目撃した部員に告げ口され、罰として猛烈な特訓を一人受ける。そしてその最中に体調が悪化。帰宅後に倒れ、命を失った。
谷川の親友でもある主人公の矢吹(永島敏行)は、勝利至上主義のあまり個人の意思を認めようとしない部のスパルタ体質に反発を覚え、練習から離れた。クラスの不良たちと付き合うようになった矢吹は河原で乱闘、そのために停学処分を受ける。
サッカー場面は冒頭と終盤を除くと少ない。映し出されるのは、抑圧に苛立ち、抵抗する若者たちの姿。
中でも印象的なのは、中盤の場面。「言いたいことを言わせろ!」「俺たちは学校のロボットじゃねえんだぞ!」校庭でアジテーションする矢吹たち。それに喝采を送る生徒たち。その姿が、まばゆいばかりの映像の中で躍動していた。
監督の降旗康男は抒情的な演出の名手で知られる一方で、反体制的な精神が根底にある。その精神を降旗に植え付けた「師」が、本作の脚本を書いた家城巳代治。その特性が上手く合わさり、情感豊かな映像と反骨心あふれるドラマとが重なる、気恥かしいまでに熱い青春映画に仕上がった。
よくぞ掘り出したと思う。