1968年作品(92分)/ディメンション/3800円(税抜)/レンタルあり

 今回もDVDレーベル「DIG」から発売の「タイトルだけは知っているけれども観たことはない映画」特集を続ける。取り上げる作品は『経営学入門 ネオン太平記』だ。

 今村昌平の弟子である磯見忠彦が監督をし、今村自身が脚本を書いているだけあって、役者陣が豪華。主演の小沢昭一を筆頭に、西村晃、加藤武、北村和夫、春川ますみ、吉村実子、三國連太郎――と、今村作品の常連ともいえるアクの強い面々が顔を揃えている。

 これだけのメンバーが一堂に集結し、舞台が大阪の大衆キャバレーとなれば、面白くないはずがない。

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 物語はキャバレーの支配人・益本(小沢)が店で起きるさまざまなトラブルに対処していく様を通して展開していく。とにかく、この益本のキャラクター、そしてそれを演じる小沢がいい。

「脇毛かて剃るもんやない! おケケ見せて、エエ匂いさせたったら男なんてイチコロでついてきよるわ」「目やら耳やら鼻下、指先、五感でも六感でもくすぐったれ! 男はみんな動物や! さかりのついた牡犬やで!」大勢のホステスの前で訓示を語る冒頭の場面から、その芸人のような軽妙な話術に引き込まれる。その一方で仕事に熱を入れ過ぎて休日になるとダウン。内縁の妻(園佳也子)との夫婦生活はサッパリ――。小沢ならではの下世話さが満載になっている。

 これに絡んでくるのが、二枚目を気取るヌード劇場の支配人(西村)、ユニセックスな感じのデザイナー(加藤)、えげつなくホステスに迫る客(三國)――。出てくる人間がことごとく毒々しい。

 後半まで、大きな展開はない。描かれるのは益本を通しての、夜の世界の日常だけだ。それでも、芸達者たちが演じる個性豊かな面々と小沢との至高ともいえる名人芸の芝居を観ているだけで、時間がアッという間に過ぎていく。彼らがいる世界が楽しいあまり、愛しくてたまらなくなる。

 ただ、後半になって一転する。益本はわいせつ罪で警察に捕まり、二号店の予定地が文教地区のためPTAと対立してマスコミや市議会に叩かれ、店のホステスとの情事を知った内縁の妻は店に乗り込み、売上金は強盗に奪われる。

 本作が素晴らしいのは、ここからだ。逆境にあっても、益本は折れないのである。テレビのワイドショー(司会は野坂昭如)に呼ばれた益本は討論会で大勢のPTAから袋叩きに遭いながらも、一歩も引き下がらない。それどころか、店が火事で焼けても「焼け跡祭」として世間の同情を煽り、その勢いで二号店も開店させてしまうのである。

 その居直りぶりは、もはやヒロイックにすら映っていた。

泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと

春日 太一

文藝春秋

2018年12月12日 発売