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黒い鞄からフィナンシェが……長手数の激闘を制した永瀬拓矢七段の「将棋めし」哲学とは

黒い鞄からフィナンシェが……長手数の激闘を制した永瀬拓矢七段の「将棋めし」哲学とは

「将棋めし」から観る叡王戦 #1

2019/06/09
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プロの将棋の強さは紙一重といわれるが……

 結果は158手と、前2局よりは少なくなったものの激戦を感じさせる手数で、永瀬七段の勝利となった。

 局後の感想では「終始うまく指されているような将棋だった」、「全体を通してとても大変な将棋だった」と振り返った。プロの将棋の強さは紙一重といわれる。トップ棋士であればあるほど、その差はどんどん縮まっていく。この将棋を制したのはやはりカロリーだったのか、食事にまで現れた気合だったのか。その紙一重を超える要素が、もしかしたら食事にあるのかもしれない。

将棋への圧倒的努力から「軍曹」とも呼ばれる永瀬拓矢七段 ©文藝春秋

「どちらが勝ち上がっても食ってやる」

 この二人の対局を強く意識していた棋士がいた。タイトル保持者の高見泰地叡王である。

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 高見叡王はもともと棋士の食事注文に造詣が深く、その情報量と注文バリエーションでファンを喜ばせていた。

 3月末にみろく庵閉店を目前にした最後の対局注文で、昼に「肉豆腐定食」と「からあげ3つ」、夜に「豚キムチうどん」「じょい豆腐」を注文した。このときは、それぞれ将棋界で話題になった代表的メニューで固めるという、なんともファン泣かせな注文をしたことでも話題になった。

 そんな高見叡王がこの挑戦者決定戦第1局の翌日、千田翔太七段との対局でみろく庵の「ミックス雑炊納豆追加」と「肉生姜焼」を注文した。

 これは面白い。永瀬七段と菅井七段の最近の通常メニューを一気に2つとも食べてみせたのだ。「どちらが勝ち上がっても食ってやる」といわんばかりの気合いの入りっぷりである。

 普段見せる軽快なトークや笑顔の奥に潜む勝負師としての炎が、食事情報としてそこに現れていた。

 今回の三番勝負は、両対局者、そして叡王含め非常に強いこだわりが感じられるシリーズとなった。

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