将棋は人間同士の戦いだ。
AIは食事は摂らない。電力がエネルギーだからだ。AIは負けても悔しがらない。それはデータの一部だからだ。だが人間同士ではそうならない。食事の選択1つで体調は変化するし、時には食事の注文で張り合ったりする。負ければ泣くほど悔しいし、感想戦で新しいタイトルホルダーの玉将を自分の王将と取り換えもする。傍から見ている分には「なにやってんだこいつら」と笑ってしまうような選択も、感情による暴走も、それらはすべて立派な勝負である。そこに価値を見出されているからこそ、将棋はこれまで長く多くの人に愛されてきたのだ。それを、電王戦から続いてきた叡王戦で強く感じたのは、はたして偶然なのだろうか。
ファンの「もっと知りたい」という欲求から
叡王戦が公式タイトル戦へ昇格したのは2017年。ほかの棋戦に比べるとまだまだ若い。その若さに相応しく、若手の棋士が活躍しているのが特徴の1つだ。そしてネット中継を通じた観戦者の感性もまた若い。
棋士の袴、眼鏡、仕草やため息、そういった盤外に思いを馳せ、局面に照らし合わせ、様々に共感し一喜一憂する。そして「もっと知りたい」という欲求から、すこしずつ将棋を覚えてきた人も少なくないだろう。
先日行われた第4期叡王戦では、盤上、盤外にさまざまにドラマがあった。そこでもやはり大注目だったのが「将棋めし」の情報であった。
将棋めしについては前回の記事に詳しく書いた。今回はその将棋めしの観点から叡王戦を、挑戦者決定戦三番勝負から振り返ってみようと思う。なお、棋士の段位、称号については当時のものである。
なんともファン思いなしくみだ
対局は永瀬拓矢七段と菅井竜也七段という、1992年生まれ同士、そして東西の居飛車党と振り飛車党の対決となった。
挑戦者決定戦での持ち時間は各3時間と短い。通常、持ち時間の短い棋戦では昼休憩はあっても夕休憩はない。そこで対局開始時間を15時にずらすことで、学校や仕事、家事などひと段落したファン達が集まる夕食時に食事注文の報道やもっとも盛り上がる終盤の中継がされるようになっている。なんともファン思いなしくみだ。
しかし、少し問題がある。この二人、食事の注文にほとんど変化がないのである。永瀬七段は一度「これ!」と決めたら突き進む、加藤一二三九段を彷彿とさせる食事注文が特徴であり、最近はみろく庵の「ミックス雑炊納豆追加」ばかりである。また菅井七段もおそらく店の定休日や持ち時間に合わせて変化はあるものの、胡麻みそラーメンや天とじ丼の採用率が圧倒的であった。そんな中から将棋めし的なテーマを見つけることはできるのか?