タイトル戦の食事は華やかだ。開催場所の料理人や地域の人々が腕を振るって棋士をもてなし、棋士の対局を裏から支える重要な役割があるからだ。他の対局場を視察するなど努力を重ねている旅館もある。

 とりわけ叡王戦は食事に「何か」がある二人の対局であった。

 棋士の食事を「観る将棋ファン」目線と「プロの視点」から観察する、自他ともに認める「プロの観る将」高見泰地叡王と、勝負のために秒読みも恐れずカロリーを摂取する「軍曹」永瀬拓矢七段。

ADVERTISEMENT

 何も起きないはずはない。

永瀬七段のかたわらにはすでにバナナが用意されており

 第1局は台湾台北の「圓山大飯店」で行われた。世界10大ホテルに選ばれたことのある超有名ホテルである。

台湾台北の「圓山大飯店」 ©iStock.com

 対局開始は10時、持ち時間は各5時間。昼と夜それぞれに食事が出る。永瀬七段のかたわらにはすでにバナナが用意されており、万全の状態といったところだろう。戦型はファンの間で「親の顔」とまで呼ばれるほど頻出する「角換わり」の中では前例の少ない「早繰り銀」となった。同じアジア圏だが違う国、同じ将棋だが特別な対局で二人はどんな食事を注文するのか?

 しかし昼食の報道がなされたとき、あまりのことに自分の目を疑った。

 高見叡王
 揚州チャーハン、小籠包、ウーロン茶

 永瀬七段
 揚州チャーハン、小籠包、豚肉とへちまとえび蒸餃子、麻婆豆腐、クラブハウスサンド、グレープフルーツジュース、ホットコーヒー

 永瀬七段の食事注文が明らかに「多すぎる」のである。普通の多さではない。高見叡王の2倍、いや3倍はあるだろうか? 公開された写真には、これからパーティでもするのかと言わんばかりの料理がぎっしりと敷き詰められている。中華料理は美味しいもんね。色々食べたかったのかな? ならそのクラブハウスサンドは一体何なんだ?

 この注文について、局後のインタビューでは「海外での1人前の基準がわからなかったので、念のため多めに注文しました。少ないと困りますが、多いなら調整はできますので」と答えていた。なるほど軍曹らしい発想だ。さらにクラブハウスサンドは中華料理が自分に合わなかった時のための策だったという。

 さすがにすべては食べきれなかったようだが、夕食をキャンセルして昼食の残りを食べたという。それも「猫舌だからさめているほうがいい」と、何の問題もなさげである。