昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/06/21

「雨傘は地位が低い人たちだったが、今回はエリート層も支持している」

――大英帝国を主人として仕えた植民地官僚ですね。

C: ああ。けれど、言い方を変えれば、完全に西側水準での民主・自由・法治の概念をしっかり持っている人たちってことでもある。でも、香港返還から20年以上が経って、政府内でそういう人たちが減っている。英国時代以来の公務員の規律の衰えの原因もそこにある。

S: 英国のコモン・ローは極めて理知的で優れた法体系だ。香港はさまざまな面で中国に飲み込まれたけれど、英国が伝えてくれた法治の概念、司法のシステムは香港に残された最後の砦だよ。だが、今回の逃亡犯条例改正問題は、その砦を崩す動きだった。だから、絶対に容認できないものだと感じた。

C: 雨傘運動は社会的に地位が低い人が多く支持していた印象だけれど、今回はハイクラスの人も運動を支持している。その理由はこういう点にもあるのではないかな。

――今回、抗議運動の最前線で警官に突撃している人たちは、「コモン・ローのシステムを守る」みたいな論理で反対していると思いますか?

C: よく知らないけれど、彼らは法治システムについての問題意識を持っているわけではないと思うな。そういう難しいことに興味を持つのはエリート層だ。

S: 若い世代に香港人アイデンティティが強く、政治運動に熱心な傾向があるのは、香港にいる限りはもう逃げ場がないからだろう。移民として海外に脱出するのでなければ、香港を変えないとまずい。そういう考えだろうね。

◆◆◆

香港の社会格差は先祖代々受け継がれてきたもの

 打てば響くようなスマートな地頭の良さと、当然のように顔を覗かせる選民意識。そんな印象を覚えた方もいるだろう。香港は過去に150年以上の英国統治を経験したうえ、中国大陸の社会主義革命の影響を受けずに旧中国の価値観も残ったことから、実はかなり強烈な階級社会の顔も持つ。加えて英国時代から、政府の市場介入を最小限にとどめる自由主義的な資本主義経済が幅を利かせてきた土地でもある。

6月17日朝、立法会前ではヘルメットや雨傘・棒などの対警察闘争用アイテムが回収されていた。今回はボランティアによるこうした物資の提供が非常に盛んだった ©安田峰俊

 近年、格差問題は中国や日本でも深刻だが、中国大陸の格差は改革開放政策が軌道に乗った最近30年間で生まれたものでしかない(日本も格差問題が顕著になったのはここ20年以内の話だ)。ゆえに30代以上の人たちであれば、国民の大部分が同レベルの文化・経済水準の暮らしを送っていた往年の記憶も残っている。

 しかし香港の場合、社会格差はすでに先祖代々受け継がれ、階層として固定化されたものだ。上流階層と庶民階層では、各階層で主流の言語(英語と広東語)が異なることすらあり得る。狭い街に住んでいるのに、互いの生活上の接点がほとんどなかったりもする。

 だが、今回の逃亡犯条例改正問題は、それぞれの理由は大きく異なれど、香港社会の上から下までなんらかの違和感を抱き得る問題だった。前代未聞の200万人規模のデモが発生した要因は、こうした点にあるとも言える。

関連記事