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ノンポリおじさんも動いた

 いっぽう、近年の香港では世代間の分断も大きい。特にゼロ年代までに中国とのビジネスで経済的な恩恵を受けてきた年配世代と、割りを食った思いが強い30代以下の世代との考えのギャップは顕著だ。総じて言うならば、前者は政治への興味が相対的に薄く、中国大陸をそこまで嫌っていない。対して後者は政治に感心が強いうえに、中国大陸への心理的な距離感が強い傾向が見られる。

 中国大陸と香港の社会を隔ててきた一国二制度は2047年に終わる予定だが、それまでに世を去る可能性が高い前者と異なり、後者の若者世代は自分が生きているうちに「完全に中国社会に組み込まれた香港」を体験するという違いもある。

 だが、今回の香港のデモに向かった人たちには、年配層も若者層も含まれていた。政治的にも、ほぼノンポリに近い層が数多く参加していた。そこで最後に紹介するのは、ノンポリの一般人代表、下町暮らしのWさんである。

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【ファイル3 ノンポリおじさんが動くとき】
〔Wさん 52歳 職業:小規模商店主 学歴:専門学校卒〕

――デモにはどういう形で参加されましたか?

W: デモに行ったのは2003年の「50万人デモ」以来だな。なんとなく、今回ばかりは行ったほうがいいなあと思って。9日と16日のデモに参加した。最初から最後まで歩くのは大変だから、銅鑼湾(コーズウェイベイ)あたりから横入りして、途中で抜けたよ。

――参加を決めた理由は?

W: なんとなく、本能的にマズい感じがしたというか。あとは林鄭月娥の態度が悪かったからかな。今回、香港の弁護士会が「慎重に審議を」と意見書を出したのに、強行突破をしようとした。専門家が意見を出しているのに耳を貸さないで、最初から法案を通すことありきで「法律が通ってから内容を説明する」みたいなことを言い出していた。偉そうじゃないか。あれはよくない。

「別件のでっちあげもあるだろう」

――態度が偉そうなのが気に食わなかった(笑)。

W: 彼女は人生で失敗したことがない人だから、他の人の意見に耳を傾けないんじゃないのかな。今回の話だって、しっかり市民に説明して慎重に審議に移ってくれていれば、納得もできたかもしれないのに。

香港人の全員が今回の件に強い関心を持っているとは限らない。6月15日15時過ぎ、林鄭月娥行政長官が法案の審議棚上げをはじめて直接発表する会見がテレビ中継で流れているにもかかわらず、まったく無関心のまま安食堂で昼食をかきこむ人々。湾仔にて撮影 ©安田峰俊

――逃亡犯条例改正案をどう思いますか?

W: 内容をしっかり理解しているわけじゃないけれど、ちょっと怖い気はする。雨傘運動のときと違って、財界が反対しているのもわかるよ。中国で商売していたら、誰でも絶対にワイロなり何なりの悪いことはやっている。やっていなければ商売できないもの。経済犯罪は引き渡しの対象にならないというけれど、別件のでっちあげはあるだろう。中国にことさら悪い印象はないけれど、信頼性が低い部分は確かにあるし、特に司法関係なんかはそうだよね。