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一杯2500円もする高級ホテルのパーコ麺で「ラーメン懇談だ」

 彼は参院選の直前、報道陣を前にこう宣言した。

「だから、この年金を変えなければいけないんだということに目が向けられるチャンスが来たかもと思っています。参議院選挙もありますが、私は全国でそういう話もしていきたいなと思っています」

 生活者というものは、未来よりも明日を知りたがる。誰もが納得いく年金問題の落としどころをどこに見定め、地方の庶民たちにどんな言葉を投げかけるのか。父の構造改革の「痛み」をどう総括し、この国特有の歪みや不安を改善するような処方箋を示せるのか。

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「ダニエル・ブレイク」に己を投影し、人には言いにくい生活の悩みを抱えながら、翳りゆく出版界の底辺でもがき苦しんでいる凡庸な物書きにとっては、今回の遊説は見ものだ。

 演説中、金にも力にも容姿にも恵まれた4世政治家の地金が露わになれば、地べたで暮らす人々は何を思うだろうか。一杯2500円もする高級ホテルのパーコ麺を若いエリートたちと嗜み、外向けには「ラーメン懇談だ」と吹聴しては庶民派ぶるあざとい一面を知るだけに、一抹の諦めを覚えている。

分厚いベールに包まれた「自民党のプリンス」の素顔を描く

 私はこれまで7度にわたり、同世代でもある小泉の全国行脚に密着してきた。そのうち6度は徒手空拳のフリーランスでありながら、無謀にも「完全密着」をしてきた。

 選挙期間中の約2週間、同じ電車や飛行機や船に勝手に乗り込み、移動中の車を後ろから追跡しては、彼の近くを同じスピードで歩き、同じ食べ物を胃袋に流し込む。自らの肉体を頼りに喜怒哀楽を疑似体験することで、分厚いベールに包まれた「自民党のプリンス」の素顔を描いてきた。

 

 なぜ、閣僚でも党幹部でもない「38歳」を追いかけようとするのか。それは、国政選挙となれば、60年以上の伝統と経験、そして元宿仁事務総長をトップとして220人ほどのスタッフを擁する巨大与党のすべてが「170センチちょっとの男」に注がれるからだ。

「小泉進次郎」を観察し続けることは、2020年代の自民党政治を想像する上で安倍晋三や菅義偉を追うよりも有意義だと思っている。

――ここまでは、従来、選挙密着を始める時に使い回してきた自己紹介の決まり文句である。

 しかし、今回はちょっと勝手が違いそうだ。

 最近懇談した全国紙の政治部に属するスクープ記者は、私に忠告した。

「今回、進次郎を追っても仕方がない。ろくな仕事をしていないでしょ。うちはあえて批判もしないよ。紙面を割くほどの政治家じゃないんだ」