一人だけ旗幟を鮮明にせず、ひたすら逃げ回った
世論調査をすれば「次の総理にしたい人」のナンバーワンで、1年間に1億円もの政治資金を集めてしまう。私は政治ジャーナリズムの立派な監視対象でもあると思ってきたが、子育て雑誌を編集している妻にも「飽きた」と呆れられている。普段から出入りしているいくつかの媒体に持ち掛けても、これまでになく反応が悪い。すなわち、今日までに集めることができた取材費(旅費交通費が9割)も過去最少だ。
やはり昨秋の自民党総裁選が背景にある。
安倍晋三と石破茂が天下分け目の一騎打ちを演じる中、小泉は400人以上もいる自民党国会議員の中でたった一人だけ旗幟を鮮明にせず、ひたすら逃げ回った。あれを機に、彼のことを「戦わない政治家」だと見なした者は決して少なくない。我が子贔屓の父・純一郎でさえも「まだまだ」とこぼすようになった。その後も、勝負所で日和見な態度を続け、永田町からは怨嗟の声がひっきりなしに漏れてくる。
そういう意味でも、この夏の全国ツアーに臨む小泉を取り巻く環境は、上り調子だったこれまでとはだいぶ異なる。
「24時間仕事バカ」なんてもはや絶滅危惧種だ
私は懲りずに彼に注目している一人だが、今回は無理をしてまで密着しないことを決めた。
全国約100か所を約2週間で回る「完全密着」には、どんなに切り詰めても交通費だけで100万円以上はかかる。青息吐息の出版界では、ありえないスケールの経費だ。「マスゴミ」と罵られる当事者の暮らしも楽でない。従来は複数の媒体から集めた予算で工面してきたが、今回は文春オンライン1媒体に絞った。1日1か所、なんとか回れそうな予算の範囲内で取材しようと思う。
このダウンサイズ感は、今日のジャーナリズムを取り巻く現実を反映している。その上、「24時間仕事バカ」なんてもはや絶滅危惧種だ。2週間もの選挙期間中、雲の上に住む「1億円プレイヤー」の人気政治家のペースに合わせて家を空け、妻に「ワンオペ」を強いてきた自分の働き方を改めたい。いつものように家事や育児も(できる限り)分担しながら現場に赴こうと思う。
後付けの理由かもしれないが、むしろそのほうが、地べたの目線から「プリンス」をつぶさに見ることができるんじゃないか。右でも左でも、親安倍でも反安倍でもない。小泉進次郎は「上」か「下」か、どちらの味方なのか。読者と同じ「普通の人」の側に立ったほうが、冷静に見極められるのではなかろうか。
公示日の4日、小泉は朝9時台に滋賀県草津市で「第一声」を行い、秋田県に移動して県内3か所で演説をぶつ。私は家族と朝ごはんを食べた後、我が子を保育園に送り届けてから新幹線で秋田に向かう。
(文中一部敬称略)
写真=常井健一
※参院選の投開票日まで、常井氏が見た小泉進次郎氏の全国遊説ルポを不定期で掲載します。