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「マザコン」は揶揄されない時代に

 我々世代の男子にとって、「マザコン」は最も忌むべき称号でした。乳ばなれできていないことは、男にとって一人前でないということ。たとえ心の中ではお母さんのことが大好きでも、面と向かった時は、「うっせぇババア」と言わざるを得なかったのです。

 1992年には、「ずっとあなたが好きだった」というドラマに、佐野史郎演じる「冬彦さん」という、希代(きだい)のマザコンキャラが登場しました。野際陽子演じる母親との密着ぶりが話題となったのであり、「冬彦さん」は長い間、マザコンの代名詞だったのです。

希代のマザコンキャラ「冬彦さん」を演じた佐野史郎 ©文藝春秋

 恋愛至上主義の時代であったバブルの頃は、「恋愛対象よりも母親を大切にする男は気持ち悪い」という感覚がありました。「全ての男はマザコン」であるわけですが、しかしその時代、男性はモテるためにマザコンを隠さなくてはならなかった。

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 しかし今、前述のような公衆の面前における母と息子の愛の交歓シーンを目撃すると、もはや「マザコン」は、悪い資質として捉えられていない模様です。母親を抱きしめた後は、母親のみならず息子の方も満面の笑みだったのであり、そこからは、「自分の母親を喜ばせるのは息子として当然のこと」という声が聞こえてきそうだった。

若者が母親を「お母さん」と呼ぶことについての二つの仮説

 男の子がマザーとどれほど仲が良くても「マザコン」と揶揄(やゆ)されない傾向は、ここ10年くらい感じておりました。最初に感じた兆候は、テレビに出てくるタレントさんでも、また部の後輩達でも、とにかく若者が皆、自分の母親について話す時、「お母さん」と言うようになってきたことでしょうか。

©iStock.com

 我々の時代であれば、他人に対しては「母」と言う、という教育は徹底していたと思います。しかしいつ頃からか、若者界では他人と話す時でも、自分の母親のことを「お母さん」と言うように。しかし「うちのお母さんが」と言う人は多くても、「うちのママが」と言う人がいないところを見て、私の中では二つの仮説が生まれたのです。すなわち、

 仮説1 若者達は、「お母さん」がよそゆきの言葉だと思っている。

 仮説2 若者達は、子供の頃は「ママ」と呼んでいても、少し大きくなったら「お母さん」と呼ぶべきだと思っている。

 というもの。