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家族が死に瀕した時、ハタと自覚されていた「愛情」

 日本における家族間の愛情は、誰かが死に瀕した時に、ハタと自覚されるものでした。不治の病を宣告された夫が、それまで妻に「ありがとう」の一言も言ったことがなかったのに、

「苦労かけたな」

 と言ってみたり。「その一言で、50年の結婚生活の苦労が、全て吹き飛びました」といった高齢女性による新聞への投書が、今でもたまに載っているものです。

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 親子間でも、病の母を息子が負うてその軽さにふと涙ぐむ、くらいでよしとされました。母親の他界後に墓参りをすれば、息子にとっての親孝行は完了したのです。

女性が「愛情の表現」を求める時代

 しかし時代は、変わりました。女性達は「なんで黙って忍従なんかしなくちゃいけないのよ」と、夫や子供に対して「愛情の表現」を求めるようになったのです。

 たとえば昔のお父さんは、うまいともまずいとも言わずに黙って食事を食べたものですが、今のお父さん達は、感想を述べることが作った人へのマナーであると心得ている。

「この煮物、美味しいね」

 などと言うことによって、妻の料理に対するモチベーションをキープしなくてはなりません。

 誕生日やクリスマスにプレゼントをあげたり、食事や旅行に連れていったりすることによって、妻には「愛されている実感」を得てもらう。それが「言葉もしくは態度に出さなければ、愛情は伝わらない」と知っている世代です。

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 セックスレスの問題が話題となって久しい時が経ちますが、それはセックスレス夫婦が急に増えたからではありません。昔は、ある程度結婚年数が経った夫婦がセックスをしなくなるのは当たり前のことだったのが、その後「死が二人を分かつまで愛情表現を続けてくれなくては、結婚生活などやっていられない」と思う妻が激増。そんな妻にとってセックスの消滅は大問題なのであり、世に訴え出た結果、大きな社会問題と化したのです。

 夫達だけでなく、子供達もまた、母親に対する愛情表現を求められるようになりました。小学校では「二分の一成人式」というものが流行っているのであり、子供達が親御さん達に、「育ててくれてありがとう」などと言ったりしている。またヒップホップの人達も、既にだいぶ前から、親への感謝魂を鼓舞し続けています。何はなくとも周囲に感謝、という風潮の中で若者達は育っているのであって、親への感謝など、もはや朝飯前といったところでしょう。