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「1USドル払わないなら警察を呼んでやる」

 ぐったりしている間、「何が起きたんだ?」と聞いてきた店員に、百戦錬磨たちが「ノンアルコールのピニャコラーダを頼んだはずが、間違ってアルコール入りを出されたせいで彼女の体調が悪くなった」とクレームを言ってくれた。しかし店員は「アルコールは入れてない」と言い張り、自分のミスを認めようとはしない。

 水をがぶ飲みして時間の経過とともに何とか起き上がれる程度に体調が戻り、そろそろ店を出るかと店員に会計を依頼したら、請求額に水代1USドルが加算されていた。「店側のミスで体調を悪くしたのに、なぜこっちが水代を支払わなければならないんだ? 店の負担でしょ」と伝えると、逆切れ店員が斜め上の回答を出した。

店員「分かった、1USドル払わないなら警察を呼んでやる」

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 ……はい?

 さすがに、これには百戦錬磨たちもポカーンである。店員は即座に街を巡回する警官を呼びつけ、スペイン語で捲し立てるように警官に何かを訴えている。私たちがスペイン語を理解できないのをいいことに、あることないこと大げさに伝えているに違いない。

 警官は店員の話を一通り聞くと、私に向かって高圧的に「警察署へ来い」と言いだした。私からは一切話を聞かずに。片側の意見を鵜呑みにするなんて、こんなフェアじゃない対応があるだろうか。呆れて言葉も出ない。いや、結構文句言ったわ。

友人「へぇ、旅行中に警察に捕まるってよく言ってたけど、本当に捕まるんだ」
多田「……そうなんですわ」

 警察署に向かおうとすると友人たちが付いてこようとするので、「いいよ付いてこないで。観光してて」と伝えた。すると、「観光よりこっちのほうが面白そうじゃん」とニヤニヤしながら付いてくるではないか。なんて薄情な奴らなんだ、楽しんでもらえて光栄だ!

世界遺産の中にある警察署へ……

 警官についていきアンボスムンドスから10分ほど歩くと、警察署に到着した。実はこの警察署、世界遺産「ハバナ旧市街とその要塞群」の一部であり砦を利用したもので、一般人は当然中には入れない。警察に連行されたおかげで中に入れることになるなんてラッキー!と考える心のゆとりは、もちろんこの時にはない。

 

警官に連行される私と、世界遺産の警察署にウキウキしながら付いてくる友人。 ©2019 H. Takahashi, All Rights Reserved

 石造りの薄暗い警察署の中に入り、しばらくすると小部屋に友人含め3人とも呼ばれ、主犯格の容疑者多田から事情聴取を始めた。しかし警官が話すのはスペイン語のみ。どう事情を伝えたらいいものか困っていたら、警官がPCのモニターを指差した。Google翻訳である。ここに入力してスペイン語に翻訳しろと、英語に翻訳されていた。警察署内はネット使えるんだ、すごーい。……なんて悠長なことを考えている場合ではない。

 Google翻訳に自分の人生委ねるなんて嫌だーっ!日本語⇔英語でもそこそこ誤訳があるんだから、英語⇔スペイン語の誤訳の可能性はゼロではない。パエリアかハモンセラーノぐらいしかスペイン語を知らない私が誤訳に気付くはずもなく、誤訳のせいでブタ箱行きに…なんてこともあり得る話だ。なんでこんな時だけ都合よくネット使えるんだよぉとブツブツ呟きながら、仕方がないので警察の質問にGoogle翻訳で回答することにした。